「火花」林遣都、又吉を徹底研究 「何が正解なのか」迷いも
又吉直樹(お笑いコンビ・ピース)の芥川賞受賞小説を実写化したNetflixオリジナルドラマ「火花」。日本中の原作ファンが注目する中、本作の主演に抜てきされた林遣都はこう語る。「プレッシャーよりも“ものにしなきゃいけない”という意欲が上回った」と。お笑いに夢を託した青年の10年にわたる紆余曲折を演じ、最後は涙をこらえるのに必死だったという林は、このドラマを通して何を感じ、そして何が見えたのか。
映像配信サービス・Netflixが日本独自のオリジナルドラマとして制作した本作は、名匠・廣木隆一が総監督を務めた全10話の青春物語。売れない芸人の主人公・徳永(林)と相方の山下(お笑いコンビ・井下好井の好井まさお)、そして徳永が慕う先輩芸人・神谷(波岡一喜)が夢と現実の狭間に揺れながら、自らの道を貫こうともがき苦しむ姿をユーモラスかつ感動的に描く。
ドラマ化が決まった当初、徳永という男は、又吉を投影した人物だと捉えていた林は、又吉の人となりを徹底的に研究したそう。しかし、脚本を読み込むうちに、「徳永は自分自身ではないか?」という思いを強めていったという。「あるインタビューで又吉さんが『徳永は僕じゃない』とはっきり否定されていて、何が正解なのかわからなくなってきたとき、『自分が感じたまま演じよう』と考えを切り替えた。そうしたら、意外と普段の自分が一番近いことに気が付いた」と振り返る。
そして、「人の目を見て話せない、うまく会話ができない、付き合いがヘタ。ダメなところが僕にすごく似ていたので、こうなったら自分の『素』をさらけ出していこう、本当の『ナイーブさ』を出していこう」という思いに行き着いた。「ただ役柄として、一見ダメ人間なんですが、一度覚醒すると『何かとんでもないことを起こすんじゃないか』という才気だけは出していこうと意識した」。その絶妙なサジ加減を最も端的に表しているのが、回を追うごとに磨かれていく漫才シーンだ。
「僕も関西人で、お笑いが身近にあったことから、なんとなく『できるんじゃないか』と過信していたんですが、とんでもない! 芸人さんの漫才を生で見ると、ボーッとテレビを観ているだけじゃ気付けない細かいやりとりやテクニックが随所にある。これはもう相方役の好井さんに弟子入りするしかない」と痛感したそうだ。さらに、この物語には又吉の実体験が数多く盛り込まれているそうで、「運がいいことに好井さんが又吉さんとすごく仲がよかったので、『実際はこうだった』とリアルなアドバイスを頂いた」と明かした。
又吉本人とは、撮影に入る前、井下好井の単独ライブで偶然遭遇し、「がんばってください、お任せします」とひと言声を掛けられただけだそうだが、「漫才に関しては、好井さんのアドバイスをもとに、又吉さんの語り口を参考にしました。笑いのセンスは、必ず又吉さんの思想が反映されていると思うので、そこだけは意識しました」と力を込める。
シナリオ通りの順撮りによって、主人公・徳永と同じ気持ちで“お笑い”という夢を追い掛けた林。その分、感情も高ぶるものがあったのだろう。「普段、泣くシーンはものすごく精神力を使うんですが、今回は自然にというか、むしろ耐えられないくらい涙があふれ出ました。夢をつかむ喜び、そして夢を諦めることの悔しさ、無念さが、自分の心に突き刺さった」。とめどなく流れる涙は、心の中で「火花」を散らし続けたその証しだ。(取材・文・写真:坂田正樹)
Netflixオリジナルドラマ「火花」は6月3日、全世界同時配信開始