約1,500本から16本って…どうやって選んでるの?東京国際映画祭の裏側
第29回東京国際映画祭
第29回東京国際映画祭が今年もまもなく開催されるが、世界の名作がグランプリを競うメインプログラム・コンペティション部門の作品は誰が、どのように選出しているのか? 意外と知られていない映画祭の裏側を、コンペティション部門のプログラミングディレクター・矢田部吉彦氏に直撃!
作品選定はチーム体制で1年がかり!
今回も98の国と地域から集まった1,502本の中から選ばれた16作品が上映される本部門。その、1,500本以上もの作品を約100分の1に絞り込む膨大な作業は、誰がどのように行っているのか? そんな素朴な質問から始めると、矢田部氏は「1,500本を一気に観るのではなく、少しずつ観ていって、最終的にこの数になったということです」と前置きしたうえで「過去に映画祭に参加してくれた監督に『新作が完成したら観せてね』という連絡は常時とっているので、そういう意味では1年中、行っているようなものですね」と笑う。
本格的に動き出すのはゴールデンウイーク前に作品公募サイトがオープンしてから。「カンヌ映画祭でミーティングをして帰国するころに作品が集まり始めている。そして6月から3か月間、とにかく観まくるんです(笑)」と矢田部氏。もちろん一人で観るわけではなく、「15人ぐらいのチームで、1作品を最低でも2人が観るようにしています。そこは時間との戦いです」と物理的な苦労を語る。
作品選定にあたって意識しているのは「(映画祭が開催される時期の)秋の新作であること、監督の個性が際立っていること、世界の作品を広く網羅することの3点」。また100本単位の段階よりも「最終的に残った10本、5本の中から1本を選ぶときが一番苦しい」と語り、「『ワールド・フォーカス』部門の上映本数がもっと多ければ、コンペから外れた作品をそっちに回せるんですけどね」と思わず本音も飛び出す。
「世界初上映」にこだわる理由
だが、東京国際映画祭の現在の問題点はそこではないという。「東京の直前に開催される釜山国際映画祭(今年は10月6日から15日まで開催)のコンペに出品される作品は、入れられないんです。海外の監督やプロデューサーから「釜山からエントリーの打診があったけど、東京への出品はどうしますか?」と聞かれても、東京は公募の締切が釜山よりも遅く、まだ絞り込めていないので回答できない。それで釜山に譲ることもあるわけです」と、激しい争奪戦の現状を吐露する。
さらに「どうしても、べネチア、トロントなどの世界的な映画祭がある中で、それらを断って東京でお披露目をしようと思う作品はなかなかないですから」と苦虫をかみしめる。だが、そんな状況に甘んじているわけにはいかない。「手垢のついた作品ばかり上映していたら、世界から見放されてしまう。ワールドプレミア(※世界初上映)作品やインターナショナルプレミア(※製作国以外での初上映)作品を何本上映したのか? が映画祭の評価につながりますから。それに、そういう作品が増えれば海外の媒体や記者も記事にしてくれるし、その記事を見て出品しようという人も増え、好循環になっていくというわけです」
こうして矢田部氏たちが今回も1年をかけ、東京国際映画祭の威信をかけて選出した16本。世界からえりすぐった、まだ見ぬ新しい才能を発掘できるのが映画祭最大の醍醐味だ。(取材・文:イソガイマサト)
第29回東京国際映画祭は10月25日から11月3日まで六本木・銀座ほかで開催