生田斗真、現場でも女性のままでいた
映画『かもめ食堂』の荻上直子監督の約5年ぶりの新作『彼らが本気で編むときは、』で、トランスジェンダーの女性という難役に挑んだ生田斗真が役づくりについて語った。生田は「役者としてターニングポイントになるんじゃないか」と思いながら役に挑んだという。
本作は、トランスジェンダーの女性リンコとその恋人マキオ、マキオの姪っ子トモの共同生活を中心に、現代の家族の在り方を探るヒューマンドラマ。監督の「とにかくきれいな女性に見えてほしい」というイメージに近づけるために、ヘアメイク、衣装、しゃべり方、仕草などを研究してクランクインを迎えた生田は、「最初は、『どうやったら女性に見えるか?』という取り組み方をしていたので、カメラの前に立つまでは男でした」と現場を振り返る。
クランクイン後、しばらくは、監督やカメラマンから足の角度や首のかしげ方、カメラに対する体の角度などを細かく修正されながら芝居をしていた。ところがある日、監督から「照明部や撮影部はリンコを可愛く綺麗に撮りたいと思わないといけない。だから、現場に入ってくる瞬間から生田斗真ではなくリンコでいてください」と言われたという生田は「その日から、『おはよーす』とかは言わないようになりました」と笑う。
その後は、生田斗真とリンコのスイッチは切り替えず、常にニュートラルだったという。「ネイルはほかの仕事がない限り落とさずに帰りました。ネイルを塗っていると落ちるのが嫌だから、爪の先を浮かせてゆっくりと動かすから、それが女性らしい動きになるんだなと実感しました。コップの縁に口紅がつくのが嫌だから優しく唇を当てにいったり。そういう動作を日常化しなきゃいけないなと思いました。あと、自宅やスタジオ、ロケの合間でもなるべくスカートをはいていました」。
生田がリンコになるために、トモを演じた柿原りんかもまた、大きな力となったという。「特にりんかちゃんの前では男性的なものを感じさせないようにしていました」という生田は、現場では物静かに、リンコとして存在することで作品をけん引した。そしてクランクアップを迎えた瞬間に、リンコがスッと抜け落ちたという。「クランクアップの直後、記念写真を撮ったんですけど、完全に男の顔になっているんです(笑)。それくらい気が張っていたんだと思います」。そう言う生田の表情には、ターニングポイントとなる役と作品に対する確かな手応えがにじみ出ている。(取材・文:須永貴子)
映画『彼らが本気で編むときは、』は全国公開中