窪塚洋介「悔しい思いもあったけど、全てがここにたどり着くため」芸能生活20年を激白
俳優・窪塚洋介(37)がハリウッドの巨匠マーティン・スコセッシ監督作『沈黙-サイレンス-』に出演するという一報を聞いたとき、期待に胸を膨らませた人は多かっただろう。個性派俳優として日本映画界でも強い存在感を見せてきた窪塚。そんな彼が「この作品が最後でもいいかな」と思えるほど、スコセッシ監督の撮影現場はエキサイティングだったという。
最初にオーディションを受けたのは7年ほど前。スコセッシ監督の作品で日本人キャストのオーディションがあるということで、窪塚も参加した。しかし、その際「アテンドのミスで会場にガムをかんで入っていってしまって、金髪の女性キャスティングディレクターから『マーティンはあなたみたいな子、大嫌いだから』っていきなり言われたんですよ」と苦笑い。その後も「一応ビデオオーディションをしてもらったんだけれど、最悪な雰囲気でのまれてしまったんです。そこで力が出せればカッコいいんだけれど、まったく力を出せなかったんですよね」と振り返る。
当然結果はNO。しかし、その2年後、再度オーディションの話が舞い込んだ。「何より、まだ(オーディションを)やっているんだってことにビックリしましたね。すごい熱量だなって」。今度こその思いで2度目のオーディションに参加した窪塚。「以前説教されたディレクターがいたらダメかなって思っていたら、いたんですよ(笑)。でも俺のこと覚えていなかったんです。ならばと思い切り演じたんです。そうしたらその彼女が気に入ってくれて『もう一度来てもらうことになると思います』ってね」。
最終オーディションにはスコセッシ監督も立ち会ったという。「読み合わせとかを一緒にしてくれて、とても和気あいあいとした雰囲気の中、こちらがやりやすい空気感を出して、俺たちの一番いい芝居ができる雰囲気を作ってくれるんです。演じるごとに『アメイジング』とか『グレート』ってほめてくれて、最後に『(撮影場所の)台湾で会おう』って言ってくれたので、これで決まったのかなって思いましたね」と述懐した。
オーディションを含め、すべてにおいて異次元の体験だったというが、現場に入りさらにその思いは強くなったという。一番刺激を受けたのは「“チームスコセッシ”の一流っぷり、プロさ加減」だと窪塚は力説する。事あるごとに「低予算でごめんね」と声を掛けられたというが「ハリウッドでは低予算かもしれませんが、そんな規模の映画をやったことないからね。逆に低予算と言いつつ、こんなすごいクオリティーなの? という部分は多かった」と目を丸くする。
「それは機材云々、予算云々というより、スタッフ各人が持っている力というか、マーティンという王様がいて、それを囲むスタッフとの連携が絶妙で、役者が芝居をしやすい空気になるんですよね。こんな現場を経験すると、これで最後でもいいかな、次何ができるんだろうって思いました」と胸の内を吐露した。
さらに20年以上にわたる芸能生活を振り返り、「いろいろなフィルターを掛けられ、色眼鏡で見られてきた人間だからね」と語った窪塚。「悔しいなって思いもあったけれど、良いリトマス試験紙になってもいるんです。テレビなどでいろいろと報道され、近づいてこなくなった人もいた。今思えば、ビルから落ちたことも含めて、全てがここにたどり着くために、なるべくしてこうなっていると思うんです」。
たどり着いた本作について「本当に人間の心の深くまで潜っていける作品。それでいて一番奥に答えが置いてあるわけではない。そこにいく過程で何を思ったのかが答えです、という映画だと思うので、そりゃあタイトルが『沈黙』だわって思いますね。声なき声を聞きとってほしいですね」と作品への思いを語るとともに「曇りなき目で見つけてくれた」とスコセッシ監督への感謝を述べていた。(取材・文:磯部正和)
映画『沈黙-サイレンス-』は公開中