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「どうする家康」松本潤&岡田准一のアドリブ光る本能寺前夜の12分

第27回「安土城の決闘」より家康(松本潤)と信長(岡田准一)
第27回「安土城の決闘」より家康(松本潤)と信長(岡田准一) - (C)NHK

 松本潤主演の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜、NHK総合夜8時~ほか)の演出統括を務める加藤拓が、16日放送の第27回「安土城の決闘」で徳川家康(松本潤)と織田信長(岡田准一)が対峙した、約12分にわたる緊迫のシーンの裏側を明かした。加藤監督は第27回について「家康がXデー=本能寺の変に対してどう動くのか、前夜にあたる回。妻・瀬名(有村架純)を失ったのち、信長への憎悪が蓄積していた家康の感情がぐらついていく過程が肝です」と話す(※ネタバレあり。第27回の詳細に触れています)。

【画像】家康が信長を凌駕する瞬間…松本潤&岡田准一、緊迫の対峙シーン

~以下、ネタバレを含みます~

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 第27回では、家康が京の本能寺で信長を討つ計画を家臣たちに明かしたのち、信長に招かれ安土城へ。ところが明智光秀(酒向芳)が饗応役を務めた酒宴の席で、家康が膳の鯉がにおうと言い出し、信長は光秀に激高。光秀が失脚したその晩、信長は家康を再び呼び出し「本当に“におった”のか?」と問い詰める。腹の内を明かさない家康に対し、信長は家康の正室・瀬名と息子・信康(細田佳央太)の死を持ち出して挑発。両者がにらみ合う緊迫のシーンが展開された。

 もともとこのシーンでは家康と信長が取っ組み合いをする予定だったが、事前の監督と松本、岡田の3者による打ち合わせを経て変更することになったという。

 「大体、週頭にリハーサルを行ってその週に収録しているんですけど、今回はその前の週に一度、松本さんと岡田さんと軽くセッションをやらせていただきました。台本上では2人が相撲を始める展開だったんですけど、それをやると(第2回で描かれた)若かりし日の家康と信長に立ち返るという、ある種のノスタルジーになる。だけど、今の二人はもう昔の相撲をとるような関係ではない。覇道を行く信長と、王道を行く家康、もはや完全に道が分かれた二人のシーンだと思うので」

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 第27回は、家康にとって絶対的なカリスマだった信長が陰りを見せ、家康が信長を凌駕する存在になっていくことを示す回でもある。加藤監督は、その一端となるのが冒頭で信長が悪夢をみるシーンだと語る。

 「信長が自分を制御できなくなっているというか、自分の果てが見えてきてしまっているというのが、冒頭のシーンだと思うんですよね。自身がたどってきた道、多くの命を奪ってきたことと格闘している。そんな信長と、瀬名を失ってから3年の間、自身と対峙し続けてきた家康が一対一でぶつかるという展開においては、肉体ではなく、精神のぶつかり合いになるのではないかという話になりました。撮影の10日ぐらい前にそのパターンで一度やってみようということになり、軽く合わせてリハーサルをやって本番に入った感じです。信長が刀を手にしているといった、大まかな動きは事前に決めていましたが、刀を抜いて振り下ろすといった動きは岡田さんのアドリブです」

 信長が終始刀を手にしている設定については、監督と岡田が話すなかでアイデアが生まれたという。「特に刀を持つ必要はないのですが、信長が『京で待ち伏せして俺を討つつもりか?』とひれ伏した家康に迫るところで、それを手でやるのか、脇に置いてあった刀でやった方がいいのかと。僕が“刀でやりたい”と話したら岡田さんが“じゃあ、そのままずっと持っちゃうけど”とおっしゃって動いていくうちにああいう感じになりました。文句なしにカッコいいですし、振り下ろす動作にも何かを断ち切る意味合いが込められているように感じられて、そういったところも含めて岡田さんのお芝居は素晴らしかったですね」

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 これまで家康に対して弱みを見せることのなかった信長だが、本回では自身の苦悩を告白するシーンがあった。信長は「人を殺めるということはその痛み、苦しみ、恨みを全てこの身に受け止めるということじゃ」と言い、いずれその報いとして無残な死を遂げることを予期しながら、「恨め、憎んでもいい。だから俺の側で俺を支えろ」と家康に懇願する。

 「ある意味、究極のラブシーンですよね(笑)。きっと寂しかったんですよね。孤高の人ですけれど、最終的にはストレートに言うしかなかったのかなと」

苦悩を打ち明ける信長に家康は……

 一方、信長の苦悩を受け止めた家康が涙を流すシーンは松本のアドリブだったという。「信長が刀を振り下ろして座りこんだ後、家康が1、2歩後ずさるんですよね。これまでずっと信長に追いつこう、食らいつこう、超えようとしていたんだけれど、今目の前にいる信長は完全に打ちひしがれているというのが、手に取るように見えてしまう。後ずさりながら一筋の涙が頬を伝う……という松本さんのお芝居は、それは素晴らしかったですね」

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 最後には家康が信長の側に寄り「弱きウサギがオオカミを食らうんじゃ」と耳元でささやく流れだが、この描写も松本のアドリブ。これまでにも家康と信長が至近距離で話すシーンは度々あり、とりわけ第15回「姉川でどうする!」では信長が家康の耳を噛む描写が反響を呼んだ。しかし、本回ではその構図が逆転する。

 「あまり見たことない家康だなと。いつもは信長が寄っていくんですよね。その直前にも信長がクローズな距離感で『腹の内を見せなくなったな』とつぶやくところがありますが、家康は全く動じず、最後には家康が『わしはわしのやり方で世を治める』『行き詰まっておるのはおぬしではないのか』と迫る。それに対して信長はもはや動くこともできないという逆転の瞬間と、感情のぶつかり合いを表現しなければならないので大変なシーンではありました」

 ところで、信長は家康の殺意を察知しながら、わずかな手勢を連れて本能寺に向かうことをあえて予告するが、それはなぜなのか。加藤監督は信長の心理をこう分析する。

 「もうどこかで終わりにしたいんですよね。彼の戦いの人生を。彼は革新の人ではあるんだけど、理想主義者ですよね。理想を達成するためにあまりにも修羅の道を進んできてしまった。その先にある理想の新しい世界を見たいんだけど、それを創っていくのは自分ではないこともよく分かっている。それでもやれるなら、家康に支えてほしいとラブコールを送っているわけです。それを許してくれないんだったら本能寺で殺してほしいという。哀しい人ですよね」

 完全なる主従関係にあった信長と家康の愛憎が入り乱れ、ある決定的な瞬間を迎えた本エピソード。同時に、演じる岡田と松本の演技の熱もピークを迎えた記念すべき回となった。(編集部・石井百合子)

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