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俳優・松村北斗のハマる魅力 人気監督のもと猛スピードで飛躍

『夜明けのすべて』より松村北斗演じる山添くん
『夜明けのすべて』より松村北斗演じる山添くん - (C) 瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

 6人組アイドルグループ・SixTONESとして絶大な人気を博す一方、2021年放送「カムカムエヴリバディ」で朝ドラ初出演、新海誠監督のアニメーション映画『すずめの戸締まり』(2022)では声優デビューを果たすなど俳優として活躍も目覚ましい松村北斗。先ごろ公開された上白石萌音とのダブル主演映画『夜明けのすべて』は公開3日間で観客動員13万人、興行収入1億8,620万円を突破する大ヒットスタートを切った。本作を中心に、松村の俳優としての魅力を考察する。(文・浅見祥子)
※一部『夜明けのすべて』の内容に触れています。本編ご鑑賞後にお読みいただくことをお勧めします

『夜明けのすべて』松村北斗メイキング&場面写真

 俳優・松村北斗を意識したのはいつだろう? 2012年の映画デビュー作『劇場版 私立バカレア高校』以降、『坂道のアポロン』(2018)、『劇場版 きのう何食べた?』(2021)、『ライアー×ライアー』(2021)など出演を重ね、アーティストとしての彼を知らない自分にとっても、何となく気にかかる存在ではあった。

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 多くの視聴者に「俳優・松村北斗にハマった!」と言わしめたのは、2021~2022年にかけて放送されたNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」だろう。1925年、ラジオ放送の始まった日に生まれた安子、その娘るい、るいの娘ひなたによる100年の家族の物語だ。

 松村が演じたのは3世代のうち最初のヒロイン、上白石萌音演じる安子の相手役である雉真稔(きじま・みのる)。繊維会社の跡取りで商科大学に席を置く、硬派なハンサム。なぜそんなに七三分けが爽やかにキマるのか? 品があって優しく、自由な心を持つ立派な人間性を備えていながら奥ゆかしい。「カムカム」の松村は、そんな稔さんそのもの。上白石との相性も抜群だった。今でも、安子が「稔さんっ」というときの声を思い出すだけで泣きそうになる。そこには安子の、愛する彼の名を口にするときの甘い響きがあったから。朝ドラのヒロインらしい素直で一生懸命な安子との恋が実りますように! と、多くの視聴者が女子学生みたいな思いで二人を見守ったはず。観る者の心をわしづかみにする“アタリ役”。俳優にとって、出会うべきときに出会うべき役と巡り合った幸福を改めて思わせる。

 映画『ホリック xxxHOLiC』(2022)では、蜷川実花監督が描く濃厚な極彩色の世界のなかで「とにかく格好よくいてくれ」といわれて演じた百目鬼静(どうめきしずか)。同作では弓の使い手としての説得力、動じない男としての佇まい、女性が夢みる格好よさをさらりと体現した。

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 そして声優に挑戦した『すずめの戸締まり』を観て驚く。声だけでハンサムなのか! という発見と、アクションシーンでの「うぐぅ」みたいな息遣いなど、声での表現が実に豊かだったから。アニメーション作品のなかでも、新海誠監督の作品で、声優の果たす役割は極端に大きい。声の強弱やスピードなど、聞く人が「気持ちいい」と思う声の響かせ方のツボを外さない。初めての挑戦にして、百戦錬磨の神木隆之介らと並んでも遜色ない。この作品で松村は、米アニー賞声優賞にノミネート。それはたった一作で多くを吸収して自分のものにする、俳優としての松村の強みが世界で認められた証でもあった。

 昨年公開された映画『キリエのうた』では、プロの俳優とは異質のパワーを画面にぶつけるアイナ・ジ・エンドの存在をナチュラルに受け入れ、岩井俊二監督の描く世界にもすっと馴染みながら俳優としての確かな進化を画面に刻んだ。この人はどんな作品のどんな役であっても、「SixTONESのメンバーの」といった肩書が跡形もなく消えてなくなる。

~以下、映画『夜明けのすべて』の詳細に触れています~

朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で共演した上白石萌音と息ピッタリ!

 そして、現在公開中の『夜明けのすべて』。監督は『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱。ダブル主演として松村と上白石萌音の名前が並べば、朝ドラにハマらなかった人でも、“ああ『カムカム』のコンビね”と頭をよぎるかもしれないが、この映画に“稔と安子”の気配は1ミリもない。映画の冒頭、上白石演じるPMS(月経前症候群)に悩まされるヒロイン・藤沢さんの日々が描かれ、その生きづらさを観客は体感する。基本的には真面目で周囲に気を使う性格なのに、その時期がくるとイライラが抑えきれなくなり、仕事を続けることが困難な状況に陥る。三宅監督は説明ゼリフなしに血肉の通った丹念なエピソードの積み重ねで描き、そんな藤沢さんの物語に観客は一気に感情移入していく。

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 そんな彼女の前に現れるのが、松村演じる山添くん。藤沢さんの勤務先の同僚だが、松村はいつにも増して青白く、体温が低そう。仕事をする様子にやる気は見られず、周囲に心を閉ざし、ちらっと見下すような気配もあって、なんとなく感じが悪い。『すずめの戸締まり』であれほどハンサムに響いた声が、感情の起伏がのらないようなしゃべり方で、まさに別人。

 仕事中にはいつもシュパッと蓋を開けてペットボトルの炭酸水を飲んでいるのだが、その日イライラしていた藤沢さんは“炭酸飲むの、止めてほしいんだけど”とクレームを入れる。「え……?」と戸惑う山添くんのリアクションに、“なるほどこれは、問題を抱えた女性と心を閉ざした男子が最悪の出会いを果たして、そして……という物語?”と先読みしそうになる。

 やがて山添くんもまた、パニック障害という問題を抱えていることがわかる。それもセリフではなくエピソードの積み重ねで。要は、すべては俳優の演技にかかっている。

 藤沢さんは山添くんに、「これよかったら使って」と頼まれてもいないのに自転車を持って行ったり、自宅まで食べものを届けたり、何かと近づいてくる。普通なら“え、もしかして気がある?”と思い込みそうなところだが、藤沢さんはもちろん、山添くんにもそんな気はさらさらない。それでいて表面的に明らかでなくても、中身はどんどん変化していく。

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 彼らの演技は、かなりハイレベルだ。同じように生きづらさを抱え、会社の同僚で、同じプロジェクトに取り組むも友達という感じでもなく、恋愛にも発展しない。「いつ踏み外してもおかしくない」という微妙な距離感を、もはやあうんの呼吸のような上白石を相手に、これ以上にないバランスで構築していく松村。そうして映画が終わったころには、胸の中に温かい思いがじわっと充満している。そこに向けて息をつめるように演じてきた彼の、俳優としての底力に圧倒される。

 新海誠、岩井俊二、三宅唱と、日本の俳優なら誰もが憧れる監督から求められる松村北斗。彼がこの先どんな作り手と組み、何を吸収して、どんな俳優になっていくのか? 正直ちょっと、想像がつかない。

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