轟 夕起夫

轟 夕起夫

略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「クイック・ジャパン」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。

近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。

サイト: https://todorokiyukio.net

轟 夕起夫 さんの映画短評

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  • 悪は存在しない
    悪なんて存在しないし、善もまた存在しない
    ★★★★

    ラストあたりの展開をめぐって、さぞかし様々な「考察」が活性化しているのだろうが、あまり真面目に考えるのもどうかと思う。まあ、濱口竜介監督だからこそ用意周到な謎に運ばれ、人は思わず真剣に盛り上がってしまうのだが。“謎かけの主”は、映画を駆動させる石橋英子の音像(サウンドデザイン)と共に登場する。代々、山間地で暮らす巧(たくみ)という男と、その娘の花だ。

    巧は劇中、自称した通り、あらゆる局面で「便利屋」としての顔を見せる。それを「代行業」としてもいいだろう。しかし何の? 地域住民の。そして禍々しき自然の。バランサーを担った存在。結果、田舎ホラー化するのが最高だが、寓意が過ぎているという印象も。

  • 青春
    これを観てしまうと、第2部が待ち遠しくて仕方なくなる!
    ★★★★★

    若者たちが各々、ミシンを踏むビート音が強烈だ。それは住み込みの縫製工場の日々の光景、蛍光灯の下での単なる作業の一工程なのだが、何かに怒りをぶつけているようにも思えるし、全然そうではないのかもしれぬ。とにかく、ひとりひとりに内在する“生のリズム”が、観る者を惹きつけてやまぬ猥雑なアンサンブルを奏でているのだ。

    賃上げ交渉もあるが、たわいもない喧嘩や、恋愛をめぐるあれやこれやも。彼ら彼女らは、映画のための被写体に収まらず、時に進んで自己を表出させる。きっと、自らカメラを手にした監督ワン・ビンと(その意を汲んだ)複数の撮影者に身を預け、限られた青春という時間の“証人”になってもらっているのだろう。

  • 異人たち
    無数の「孤独なストレンジャーたち」の輝きが見えてくる
    ★★★★★

    「The Power of Love」もいいが「Always on my mind」の歌詞がこんなにも沁みるとは! 映画の余韻が凄い。我々は孤独な“星”で、その瞬きは時に重なり合うことだろう。本作の主人公とパートナー、二人の星――の周囲に無数の「孤独なストレンジャーたち」の輝きが見えてきて、グッと来る。

    その直前のベッドでの抱擁は、写真家アニー・リーボヴィッツが撮ったジョン・レノンとオノ・ヨーコを連想した。そう、全裸のジョンが胎児の如く背中を丸め、黒いセーターとジーンズをまとったヨーコにキスをする。それとは向きが逆だが、“最後の一日”を永久に留めたあの一枚のように二人の抱擁は永遠化するのだ。

  • オッペンハイマー
    「Confusion will be my epitaph」
    ★★★★★

    その男の表情はほとんど、苦渋に満ちている。「トリニティ実験」後になると、より顕著に。冒頭に掲げられるのはギリシャ神話の男神、天界の火を盗んで人間に与え、罰せられたプロメテウスの逸話で、同列とされたオッペンハイマーもまた罪深き「原爆の父」と呼ばれ続けるのだ。

    序盤に、彼に霊感を与えたピカソの「座る女(マリー・テレーズ)」が象徴的に映されるが、この作品自体がノーラン監督の“映画のキュビスム志向”の変奏。「オッペンハイマーとアインシュタイン博士の秘密の会話」がファーストシーンとラストでくっきり対になっており、ノーラン監督がフェイバリット作『アラビアのロレンス』の円環構造を意識したのは明白である。

  • 青春ジャック 止められるか、俺たちを2
    ノスタルジーではない、何者かになりたい人のための映画
    ★★★★★

    この自伝的な映画で80年代の青春の日々を赤裸々に綴り、監督・脚本を手がけた井上淳一のことも、メイン舞台となる名古屋の老舗ミニシアター、シネマスコーレのことも、それから木全支配人やキーマンである故・若松孝二のことも全く知らなくていい。とにかく「何か面白いことはないかな?」と感じている人ならば、「映画が諸手で歓迎!」してくれると思う。

    言うなれば、現在と同じような境遇の“無共闘世代”の話だ。自意識だけは高く、何者でもない若造が、憧れの世界へと飛び込んだら、かつて通った予備校のPRムービーを初監督しなければならなくなり……というハチャメチャな奮闘劇なのだ。“実録”映画の美点がギュッと詰まっている。

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