関心領域 (2023):映画短評
関心領域 (2023)ライター4人の平均評価: 4.8
音で語る。極端な演出法が強烈
音で物語を描く、極端な演出が強烈。画面には優雅な生活をする一家が映し出され、隣のアウシュビッツ収容所で起きている忌まわしい出来事はすべて"音"でのみ描かれる。その音は、一瞬も途切れることがない。人々は常に全身がフレームに入るような離れた位置から捉えられ、一度も顔がアップにならないのは、これがある特定の個人を描くものではなく、人間というものを俯瞰的に捉えたものだからだろう。その光景が、徹底的に端正で清潔な光に満ちた映像で映し出される。
そしてもちろん、見たくないものは見ず、聞きたくないものは聞かずに暮らす彼らの姿は、距離の差こそあれ、隣について同じ態度で生活する私たち自身の姿でもある。
描かないことで描き出すこと
これまたすごい映画が出てきたものです。本当にあることを全く描かないんです。なのに、ものすごく訴えかけてくる構造になっていて、驚かされました。へたなホラー映画よりはるかに恐怖感が伝わってきます。ジョナサン・クレイザー監督の異能ぶりが遺憾なく発揮されています。そして何と言っても本作の見どころ(=聴き所)が”音”。アカデミー賞の音響賞を受賞したのも納得です。できるだけ音の良い劇場でご覧ください。そしてこの邦題を決めたセンス最高です。
「自分さえ幸せならば良い」という人間の本質
壁の向こうはアウシュビッツ強制収容所。映画はそこで起きていることを見せることはせず、音で伝える。その音は1日中聞こえてくるのに、隣に住むナチ将校の妻はまるで気にせず、「またイタリアを旅行したい」と寝室で楽しそうに夫に話し、自慢の庭園で赤ちゃんに花の匂いを嗅がせる。人はいかに都合の悪いことから自分を切り離せるものなのか。照明を立てず、固定カメラで淡々と一家をとらえる独特な撮影のやり方は、彼らをひたすら冷静に、客観的に見つめさせる。重要なキャラクターである音響(この部門でもオスカーを受賞)を邪魔しないため 、音楽は映画の最初と最後のみ。その強烈な音楽も、今見たものを胸に押し付けてくる。大傑作。
「音」の効果がここまで衝撃的…という意味で劇場マスト
家族で湖で泳ぎ、母はガーデニング、子供たちは楽しく駆け回り、思春期の2人は家の裏でキスする。のどかで満ち足りた日常だが背後に妙な「ノイズ」がつねに響いている。映画を観ているわれわれは、その音が何かを理解しているが、ひたすら耳障りで、じわじわ神経を逆撫でしてくる感覚。そして時おり挿入されるモノクロシーンが、視覚と聴覚で異様な恐怖感を増幅する。
人物のアップは避け、あくまで「風景」のように記録される映像、その突き放したような演出が、作り物ではなく事実を目撃している錯覚をおぼえさせる。
現代につながる描写は今もどこかで続く悲劇と、われわれの関係を地続きにして、戦慄が止まらない。肉体が反応する必見作。