轟 夕起夫

轟 夕起夫

略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「月刊スカパー!」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。

近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。

サイト: https://todorokiyukio.net

轟 夕起夫 さんの映画短評

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  • 碁盤斬り
    “囲碁”の展開みたく、個々の人物の手筋に“棋理”がある
    ★★★★★

    これまで「自分のことしか考えていない奴ら」ばかりを好んで描いてきた白石和彌監督が、王道の人情噺を撮った。しかも時代劇という“新大陸”で。この大陸では様々な冒険ができる。それに随行した主演・草彅剛の終盤の野武士感、真っ直ぐな男だが一歩間違えればダークサイドに落ちてもおかしくはない危うさが、映画に陰翳を与えた。

    また周囲の人物の行動――考え抜かれた囲碁の展開みたく、一つ一つの手筋に“棋理”があって良い。白石監督が敬愛する巨匠・小林正樹監督の時代劇、『切腹』(62)、『上意討ち 拝領妻始末』(67)、『いのちぼうにふろう』(71)などのエッセンスも感じた。遊女屋の扱いに、脚本・加藤正人のワザあり。

  • ミッシング
    「?田恵輔映画」の変奏にして、最強バージョン!
    ★★★★★

    「幼子の突然の失踪」というのはよくある、映画的な設定だ。が、?田恵輔監督の手にかかるとそれは、他人事/余所事では終わらない。石原さとみ、青木崇高、森優作、中村倫也が高レヴェルで体現した母親、夫、弟、地元テレビ局の記者らが織りなす「?田恵輔映画」の変奏――人間関係の推移と、各々の距離感の変化がまたも肺腑を衝いてくる。

    石原のことを?田監督は“野生動物”と喩えていたが、役者としての習性が今回、(好みは分かれるが)一段と開放された。この冷笑の時代。我々はどうサバイブすべきなのか。映画が見せる微かな光明、その“光”は、自分事だけで精一杯だった母親の視野が少し広がった瞬間、初めて捉えられるのだ。

  • 関心領域
    この家族は無関心なのではなく、心を“馴致”させて生きている
    ★★★★

    “鬼畜の所業”のすぐ隣で平然と暮らせるこの家族は、“無関心”なのではない。作為的に心を馴致させ、合理性を貫いて生きているのだ。その思考は劇中、名前の出るナチスドイツ親衛隊隊員アドルフ・アイヒマンの言葉(別人説もあるが)のように、人の死を“統計”として扱うことと重なる。

    ところで本作のパンチライン、収容所所長ヘスの突然の嘔吐は現代からの批判的視座によるものだろうが、愚直な連想でJ=P・サルトル先生のことを思い出した。ナチス支配下の母国フランスでレジスタンスに身を投じた彼の「実存的不安」という考えが、ヘスを襲ったと見る。つまり、ヘスに対抗する投企、世界へのコミットの仕方こそが重要だということ!

  • 悪は存在しない
    悪なんて存在しないし、善もまた存在しない
    ★★★★

    ラストあたりの展開をめぐって、さぞかし様々な「考察」が活性化しているのだろうが、あまり真面目に考えるのもどうかと思う。まあ、濱口竜介監督だからこそ用意周到な謎に運ばれ、人は思わず真剣に盛り上がってしまうのだが。“謎かけの主”は、映画を駆動させる石橋英子の音像(サウンドデザイン)と共に登場する。代々、山間地で暮らす巧(たくみ)という男と、その娘の花だ。

    巧は劇中、自称した通り、あらゆる局面で「便利屋」としての顔を見せる。それを「代行業」としてもいいだろう。しかし何の? 地域住民の。そして禍々しき自然の。バランサーを担った存在。結果、田舎ホラー化するのが最高だが、寓意が過ぎているという印象も。

  • 青春
    これを観てしまうと、第2部が待ち遠しくて仕方なくなる!
    ★★★★★

    若者たちが各々、ミシンを踏むビート音が強烈だ。それは住み込みの縫製工場の日々の光景、蛍光灯の下での単なる作業の一工程なのだが、何かに怒りをぶつけているようにも思えるし、全然そうではないのかもしれぬ。とにかく、ひとりひとりに内在する“生のリズム”が、観る者を惹きつけてやまぬ猥雑なアンサンブルを奏でているのだ。

    賃上げ交渉もあるが、たわいもない喧嘩や、恋愛をめぐるあれやこれやも。彼ら彼女らは、映画のための被写体に収まらず、時に進んで自己を表出させる。きっと、自らカメラを手にした監督ワン・ビンと(その意を汲んだ)複数の撮影者に身を預け、限られた青春という時間の“証人”になってもらっているのだろう。

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