『ちはやふる -結び-』広瀬すず 単独インタビュー
芝居で泣くから、プライベートで泣かない
取材・文:磯部正和 写真:高野広美
競技かるたに打ち込む高校生たちの青春を描いた末次由紀の大人気コミックを実写映画化したシリーズ完結編『ちはやふる -結び-』。全国大会での激闘を繰り広げた『ちはやふる -下の句-』から2年後を舞台にした本作で、主人公・綾瀬千早を演じるのは、前作同様、女優の広瀬すずだ。彼女にとって映画単独初主演となった本シリーズは「ずっと心にあった」というほど思い入れが強い。そんな広瀬が“ちはやふる愛”を大いに語った。
『ちはやふる』は常に心にあった作品!
Q:2年ぶりの『ちはやふる』ですが、広瀬さんにとってどんな存在ですか?
わたしのなかには、ずっと『ちはやふる』があった感じです。これまでの作品も、公開が終わったあとに思い出すことはありますが、この2年間は、携わっている作品プラス、『ちはやふる』のことは常に頭にありました。クランクインまでは「あと何日」みたいにカウントダウンしていました。
Q:前作からの2年間で、共演者はみな大活躍をされていますね。
『ちはやふる』が終わってから、みんないろいろなところで活躍する姿をみていると、うれしい半面、寂しいなと思う気持ちもあって、どんどんみんなのことが好きになっていくのが分かりました。経験をたくさん積んで戻ってくるメンバーたちとまた一緒に撮影ができるのは、すごく心強かったです。でもいい意味で、みんな、なにも変わっていなかったので安心しました。
Q:広瀬さん自身も大きく成長した印象があります。
自分はそこまで大きく変わったという印象はないのですが、みんなが活躍する姿をみて「負けていられないぞ」という思いはありました。そういう気持ちがあったからこそ、頑張れたのだと思います。
Q:『ちはやふる -上の句-』は広瀬さんにとって単独初主演の映画でしたが、2年たって現場に臨むうえで気持ちの変化はありましたか?
みんなに対して信頼感がものすごく強く、不安要素がなにひとつなかったので、「引っ張っていくんだ」という特別な気持ちはありませんでした。ただ、前作の撮影が終わったあとにも、主演やヒロインとしてやらせていただく機会があったので、前回よりは、少しだけ心にゆとりはあったのかなとは思います。
座長としての立ち居振る舞い
Q:プロデューサーが「主役から座長になった」と高い評価をされていました。
小泉(徳宏)監督からクランクインの前に「みんなが主役だという気持ちは大切だけれど、主演としてしっかり現場に立ってほしい」という言葉はかけられました。少し間が空いていたので、また同じテンションに戻れるかなという不安はあったのですが、みんなに会った瞬間、『ちはやふる』の世界に戻れました。戻してくれたのはみんなです。本当に心から信頼できるメンバーだったので、自分のなかでは、座長なんてたいそうなことは全然していないです(笑)。
Q:優希美青さんや佐野勇斗さんらの新メンバーに対しては、どんなことを心がけていましたか?
「引っ張っていこう」というよりは、自分がもし、彼女たちの立場だったらどんな気持ちだろうということを考えました。優希美青ちゃんは年齢も一番下で、矢本(悠馬)くんとは10歳近くも違うんですよ。しかも2年前に瑞沢高校のメンバーたちの関係は完成されていて、とても仲が良いなかに入っていくのは、ものすごく大変なことだと思うんです。だから少しでも入りやすいような環境を作らなければいけないなという思いはありました。
Q:具体的にはどんなことをされたのでしょうか?
最初のころに「監督さんやマネージャーさんたちも含めて、みんなで回転寿司に行きたいですね」と提案しました。みんなでワイワイと話せる環境があれば、少しは入りやすいのかなと。あとは、美青ちゃんとは女の子同士だからこそ声をかけられる距離感があるので、いろいろな話をしました。
Q:じゅうぶん“座長”としての役割を果たしているように感じられますが。
わたしも現場で、先輩方からすごく優しくしていただいた経験があったので、自分がそういう立場になったら、実践しようと思っていたのです。
広瀬すずにとっての涙とは?
Q:劇中、仲間を思って部室で涙するシーンが印象的でしたが、広瀬さんは、どんな涙を流すことが多いですか?
これまで出演した作品は、涙を流すシーンがとても多かったので、プライベートでほとんど泣かなくなってしまったんです(笑)。特に悲しいときには涙が出なくなってしまいましたね。あえて言うなら悔し涙が多いかな。
Q:印象に残っている涙は?
思うようにいかないなと感じたとき「ワー」って泣いてしまうことがあります。わたしは14歳まで普通の中学生として生活していたので、当然のことながら、誰も自分のことを知らない世界で生きていました。それがこのお仕事を始めて、自分の存在が常にどこかの誰かに知られているんだと意識したら、急に閉じ込められたような感覚におちいって怖くなってしまったんです。この仕事は嫌いではないのですが「こんなに苦しいんだ」と思うことがあります。そういうときは取り乱してしまいますね。
Q:どうやって克服したのですか?
克服したというよりは、2周ぐらい回って鈍感になったというか……。本当にプライベートでは泣かなくなりました。ちょっと怖いですよね(笑)。でもお芝居で泣くシーンがあると、そこで自分の感情と似たものが一気にあふれ出てきて、ある意味でスッキリするんです。
Q:苦しいことも多いとのことですが、そのなかで女優業を続けるのは?
さまざまな葛藤はあります。でも新しい作品のお話をいただくと、すごくうれしい気持ちになるんです。「また映画に出られるんだ」とか「また一緒にあの人とお芝居ができる」という気持ちは、単純にうれしいです。そこにプラスして、もともと負けず嫌いなところがあるので、しっかり努力したいという気持ちもやる気につながっていると思います。
最高のメンバー
Q:負けず嫌いという意味では、同世代の俳優とのお仕事は刺激を受けることが多かったのではないですか?
お互い「負けたくない」という気持ちはあると思うのですが、それが変な方向ではなく、刺激し合える存在になっているというのはとても貴重な関係性だと思います。劇中でも千早は「もらってばかりの3年間」と言っていますが、ものすごく自分自身とリンクするセリフでした。それだけみんなにいろいろなものをもらいました。
Q:特別な存在ですね。
そうですね。それぞれ大切なものをたくさんもらい、それをまた別の人に与えて……みたいな、ある意味で家族のような存在ですね。一緒にいることによって相乗効果が生まれる理想的な関係だと思います。わたしにとって本当にかけがえのない作品と仲間たちになりました。
インタビュー中、広瀬は何度も共演者に対して「尊敬できる最高のメンバー」という言葉を使い、彼らから「返せないほどいろいろなものをもらった」とチームワークの良さをしみじみ語っていた。この広瀬の言葉どおり、劇中に登場するキャラクターすべてに見せ場があり、スタッフ、キャストら作り手の愛を感じるすばらしい青春映画に仕上がっている。座長として「わたしはなにもしていないんです」と広瀬は謙遜していたが、最終決戦に挑む瑞沢かるた部を鼓舞する千早の「ファイト!」の掛け声を聞いただけでも、広瀬が太い幹として作品の中心にいたことは容易に想像できた。
映画『ちはやふる -結び-』は3月17日より全国公開