ADVERTISEMENT
どなたでもご覧になれます

蜩ノ記(ひぐらしのき) (2013):映画短評

蜩ノ記(ひぐらしのき) (2013)

2014年10月4日公開

蜩ノ記(ひぐらしのき)
(C) 2014「蜩ノ記」製作委員会

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

なかざわひでゆき

崇高な魂の宿った美しき日本映画

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ。愛する者のために進んで自らを犠牲にし、身分や立場に関係なく礼節を重んじ、限られた時間の中で与えられた役割を全うする。しかし、己の正義は決して曲げない。お家の体面を保つため、言われなき罪で切腹を命じられた誇り高き武士の姿に、果たして彼のような立ち振る舞いが出来るであろうかと、思わず自らに問うてしまう。まさに身を律せられるような作品だ。
 四季折々の美しき日本の原風景に目を奪われ、情感溢れる音楽に胸を揺さぶられる。役所広司ら演者たちの佇まいも素晴らしい。日本人の心、武士道の精神というものに思いを馳せながら、悔いなく生きるということについて暫し考えさられる。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

音楽の不器用っぽさもまた黒澤譲り(笑)。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

障子が開け放たれたまま右筆たちが並ぶ広間、その前面に降りしきる雨。寺の山門を正面から捉える矩形の構図。ぴしっとした空気を醸し出す端正な画面、デジタル変換されてはいてもはっきり判る35mm撮影に小泉尭史の帰還を強く思う。こんなにも公明正大を貫きつつ嫌味にならない彼のような作家は日本映画界にひとりくらい居ていい。チャンバラがないこの時代劇のクライマックスが、少年ふたりの交流とそこから派生する“敵討ち”だというのにもまた粛然とさせられるじゃないか。しかし演技者として出色なのは“いわば悪役”を演じる串田和美。悪い奴ではないのだが、のらりくらりと権力にくっついてのし上がった信頼のおけなさが絶妙。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

気高い精神が染み入る“老成した黒澤映画”こそ小泉映画の真髄

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 思わず居住まいを正してしまう。残された時間の身の処し方という『生きる』の命題。人間性を学ぶ絆としての『赤ひげ』の荘厳。だが物事の白黒が明解だった師・黒澤明とは異なり、水墨画のような味わいだ。強烈な邪心が物語を動かすのではない。狡猾で卑屈な権力者の面子のために迫害を受け、生き様が試される。物心両面から過去の日本人ににじり寄り、所作や武士道を気高く描いていく。"鞘に収まった刀"としての風格と品性を研ぎ澄ましてきた小泉堯史の作品は、決して愛や涙の押し売りなどしない。黒澤明が撮れなかった“老成した黒澤映画”こそ小泉映画の真髄。これは、忘れられた高邁な精神が染み入る純度高き美しい映像詩である。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT