パッション (2012):映画短評
パッション (2012)ライター5人の平均評価: 3.4
コテコテのデ・パルマ節に悪酔い注意!
ブルネットの個性派VSブロンドのゴージャス美女。各々魅惑的な女たちが繰り広げる愛憎が入り乱れた殺人事件のてん末は、仮面を付けたセックスに始まり裏切り、騙し合いといった、のぞき趣味的な俗っぽさ! むせ返るようなエロスにカメラワーク、カット割など冒頭からぐるんぐるんに観客を振り回し、これでもかと繰り出されるデ・パルマ節炸裂の映像世界は悪酔いしそうな濃厚さである。こういう映画に出会うとわけもなく嬉しくなるのは、人間いつもいつも身体にいいものばかりじゃつまらないからに違いない。
特にレイチェル・マクアダムスの高慢なエロビッチぶりには目が釘付け。そこに絡むノオミ・ラパスの内に秘めたプライドと暗い情熱にはゾクゾクさせられた。2人の相性も抜群で、観ているだけでうきうきとするほど官能的。本作の男は添え物でしかないのも痛快だ。巨匠や鬼才などと称されるデ・パルマ作品はご大層に捉えたくなるが、本作もまた『ファム・ファタール』(02)を思わせるけれん味といかがわしさが魅力。そのBテイストがたまらなく楽しい。
好きです!B級エロチックサスペンス
いいですね。巨匠とか円熟という言葉を嫌う
ような、『ファム・ファタール』や『ブラック・ダリア』の流れを組む、デ・パルマ監督の本能丸出しエロサスペンス。女の嫉妬や裏切りが渦巻き、展開は完全に昼ドラと一緒。そこに絡む男が限りなくチープで、デキる女である彼女たちにとって刺身のツマ。観客に「そんな男を相手に嫉妬するか」という突っ込むスキを与えてくれるダメさ加減が愛らしい。
とはいえ本作は一応、昨年のベネチア国際映画祭コンペティション部門選出作品。これまでの清楚なイメージをかなぐり捨てて悪女に徹したレイチェル・マクアダムス、サスペンス映画がピタリとハマるスウェーデン出身ノアミ・ラパス、さらにドイツのカロリーネ・ヘルフルトという3カ国女優の競演は魅力的。彼女たちの飛躍作となることは間違いなさそうだ。
良くできたTVムービーの域を出ない
ブライアン・デ・パルマ監督の5年ぶりとなる新作は、「悪魔のシスター」や「愛のメモリー」、「殺しのドレス」などで映画ファンを熱狂させた頃の彼を彷彿とさせるヒッチコック風サスペンス。だが、その仕上がりは残念ながら“良くできたTVムービー”の域を出ない。
最大の難点はスタイルや技巧に偏りすぎた演出だ。それゆえに、上司のパワハラに苦しめられる部下という女性同士の熾烈な戦いに緊迫感がなく、殺人事件へと発展するギリギリのテンションが損なわれてしまった。その殺人シーンにしても、バレエ公演と同時進行のスプリットスクリーンで描かれるというアイディアこそユニークだが、正直なところただそれだけ。デ・パルマ映画ではお馴染みのテクニックだし、なによりもバレエ・シーンのカメラワークそのものが精彩に欠ける。
陳腐なセリフや2時間サスペンス並みのトリックも弱点。まるで「トラウマ」以降のダリオ・アルジェント作品にも共通するような安っぽさが漂う。作曲家ピノ・ドナッジョとのコンビ復活を含め、懐かしのデ・パルマが帰ってきたという意味でコアなマニアには嬉しい作品だが、やはりパワーダウンしたという印象は否めない。
技巧で魅せる鬼才デ・パルマの円熟
“ヒッチコックの後継者”と呼ばれていた頃のブライアン・デ・パルマ監督の初期作品を思い出させる。『キャリー』や『殺しのドレス』等の音楽家ピノ・ドナッジオと久しぶりに組んだり、やはりヒッチ信者であるペドロ・アルモドバル監督の御用達カメラマン、ホセ・ルイス・アルカイネを起用したりなどの効果もあるだろう。とにかく、本作ではデ・パルマの眩惑的なサスペンス演出が冴えわたっている。
ふたりのヒロインをそれぞれ赤と黒の装いで固める色使い、洗練されていながら無機的な室内の描写、そしてヒッチの流れを汲むプロンド殺しの美学。デ・パルマが分割画面を好むことはファンにもおなじみだが、本作では華麗なバレエのステージと凄惨な惨殺の模様を並べて映し、最大限のインパクトをあたえる。技巧派の本領を得意のジャンルで久々に発揮した、ファンには嬉しい逸品。
初期のデ・パルマ作品では人間の変態的な欲求が頻繁に取りあげられ、異様なムードを盛り上げていたが、本作ではその要素は薄い。そういう意味では、デ・パルマが純粋に技巧でサスペンスと向き合った作品と言えるかもしれない。
完熟のデ・パルマ(72歳)が特濃カヴァーで狂い咲き!
えげつないパワハラで他人の出世を阻む上司の金髪女(R・マクアダムス)に、部下の黒髪女(N・ラパス)が“倍返し”を目論む。猛女VS毒女。オリジナルは2010年の仏映画、アラン・コルノー監督のクールな秀作『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』だが、こちらはギラギラ。バブリーなゴージャス感すら漲る。さらに赫い髪の女(K・ヘルフルト)まで投入して(もともと同役は男性)、三人の女の愛憎がぶつかるOLキャットファイト映画に仕上げた。
72歳(制作当時)のブライアン・デ・パルマが、80年代の『殺しのドレス』や『ボディ・ダブル』など、ギミックを強調したヒッチコック・フォロワーの作風に戻って狂い咲き。分身(双子)を含む『めまい』イズムも炸裂。またスマホやRECモードなど、POV形式の前作『リダクテッド 真実の価値』に続き重層化する映像環境への興味も貪欲だ。
バレエと殺人をスプリットスクリーン(分割画面)で魅せる禍々しさには「出ました!」と狂喜。これは最高の原曲を見つけたベテランが、完熟のスキルで歌い上げた特濃のカヴァー・ヴァージョン! 同じヒッチ調のソダーバーグ『サイド・エフェクト』と並べても面白い。