イヴ・サンローラン (2014):映画短評
イヴ・サンローラン (2014)ライター3人の平均評価: 2.7
伝記映画というよりもラブストーリー
偉大なファッションデザイナー、イヴ・サンローランの輝かしいキャリアと実像に迫る伝記物語というよりも、公私にわたる長年のパートナーだったピエール・ベルジェとの複雑な愛と絆を描いたラブ・ストーリーと呼ぶべきだろう。
本作を見る限り、才能は豊かだが人間的には退屈としか思えないサンローラン。その人生に華やかな彩りを与え、成功の舵取りをしたのがベルジェ氏だったのかもしれない。2人が人目をはばかりながらも、次第に大胆で情熱的な接吻を交わす散歩シーンは白眉だ。
また、丁寧に再現された当時のファッションや風俗はもちろん、ドラッグや乱交など日常茶飯事な’60~’70年代上流社会のライフスタイルも見どころ。
ピエール・ニネのそっくりぶりには驚くが。
‘10年のドキュメンタリ『イヴ・サンローラン』を劇映画にしたような感。それは両作とも彼のパートナーであったP.ベルジェの視点から描かれていることが大きいが、YSLを形作った文化的支脈がさほど現れぬうえ、そもそもさほど波乱万丈ともいえぬ生涯なのがドラマ化する意味の有無を考えさせる。サン・ローラン財団公認作品にして、このゲイ描写や乱脈パーティ・ピープルぶり…というのを驚く人もいるかもだが、なんのこれしき当時のセレブとして珍しくも特殊でもない。もちろん、デザイン・ワークや当時の風俗の再現がきちんとなされているのは大きな魅力だけれど、映画としてはもっと大胆な切り口を見つける必要があったろう。
恋人の愛と献身で開花したモードの天才の素顔とは?
ファッションに関心がある人なら誰でも知っているイヴ・サンローランと公私に渡るパートナー、ピエール・ベルジェの愛と共闘の歴史。そのピエールが最愛の人を回顧する形で進むサンローランの伝記映画は、すべてを美しい思い出と偽らない潔さが素晴らしい。劇中のサンローランは創造の苦しみに悩み、ドラッグに溺れ、浮気もすれば、カール・ラガーフェルドと愛人を共有したり。エレガントにしてエキセントリック! そんな恋人を大きな愛で包むピエールの献身が切なく、本作は多分ピエールから亡き恋人へのラブレターなのだね。サンローランのファッション史という側面もあり、美術館展示級のコレクションを愛でるのも楽しい。