パシフィック・リム:アップライジング (2018):映画短評
パシフィック・リム:アップライジング (2018)ライター6人の平均評価: 3.3
日本の特撮物へのオマージュは健在だが、中国資本の影もチラホラ
前作から10年後を舞台に、今度は巨大ロボットVS巨大怪獣のみならず、巨大ロボットVS巨大ロボットのバトルも繰り広げられる。しかも最終決戦の舞台は日本。監督は交代しても、相変わらず日本の特撮映画&ドラマへのリスペクトは健在だ。そういう意味で、オタク心をくすぐられる見せ場は盛りだくさんである。
その一方、製作会社が中国企業に買収された時点で嫌な予感はしていたのだが、やはり中国市場を意識したプロパガンダ色がかなり目立つ。まあ、中国資本に対する諸外国の先入観を逆手に取ったストーリー展開は、なるほど、そう来ましたか!と思わせられるが、しかし同時に舞台裏の大人の事情が透けて見えるようで興ざめでもある。
怪獣バトルにメカ対決、日本的特撮の見せ場は増量
前作から監督が代わり、ギレルモ・デル・トロのようなオタク的設定密度の濃さは望むべくもないが、それでも巨大ロボット作品に親しんできた身としては大いにワクワクさせられた。
中盤のイェーガー同士の対決はその象徴で、都市を破壊しながらメカとメカが激突するスペクタクルは日本の特撮モノを思わせる。東京や富士山を舞台にした怪獣バトルのクライマックスは、それに対する作り手のリスペクトの表明で、見ていて嬉しくなる。
J・ボイエガふんする主人公の、ひねくれたアウトロー的なキャラクターも引き付けるものがあり、パイロット復帰からの成長のドラマにアツさが宿る。少女訓練兵との交流のエピソードも妙味。
理屈抜きでぶっ飛ばすのはむしろ潔い
ロボット対怪獣だった1作めの次と言えば、ロボット対ロボットで決まり。怪獣とも戦うのは基本なので、もちろんそれもアリ。そういうアクションを見るのが好きな人に、この映画はたっぷりすぎるくらいサービスをしてくれる。ドラマの部分やキャラクターは浅いのだが、無理に意味を持たせて深いフリをすることなく、とにかくノンストップでぶっ飛ばすのは、むしろ潔い。言ってみれば、思いきりお金のかかったB級映画。これはこれでいいと思うが、インスピレーションである日本に敬意を捧げるならば、東京の街の描写にももう少し注意を払ってくれればよかったのにという気も。
監督が狙ったのはキングギドラかもしれないが…
夜から太陽光の下へ。恐怖から爽快へ……。デル・トロが創造したダークな雰囲気を、デナイト監督は意図的に変革し、戦いの場をより見やすく演出。唐突に笑わせるシーンをぶっ込むのも、監督の個性の発揮だ。KAIJUに関しては、監督が好きだというキングギドラを思わせる「合体感」が表現されるが、前半の短い回想に現れる王道型が、純粋に怪獣マニアの心をくすぐったりして、そこはちょっと残念。その意味で今回は完全にイェーガー=ロボットへの愛が炸裂し、イェーガーが人間を救う瞬間などに、カタルシスが喚起される。ロボット愛はガンダムでも表現されるが、この登場のしかたはやや謎。全体では敢闘賞。
『パシリム』愛はあっても、魂は継承されず。
中国大陸でのヒットあっての続編なので、たとえジン・ティエンが美味しい役回りだろうが、そこは黙ろう。ロボット映画としても、近年の『トランスフォーマー』シリーズに比べれば、しっかりした作りで、クライマックスの東京大決戦まで、それなりにツボも押さえている。だが、これが待望の『パシリム』の完璧な続編といえるか?というと眉唾モノであり、愛は感じられても、魂は継承されておらず、よくできたハリウッド大作止まりなのは否めない。『スターシップ・トゥルーパーズ』を意識した“新世代”の映画でもあり、前作の沼にどっぷり漬かってしまったファンほど、裏切りを感じるかもしれない。そのため、それなりの覚悟を要するだろう。
オタクな博士コンビの大活躍が嬉しい
前作の監督ギレルモ・デル・トロは製作に回り、監督はスティーヴン・S・デナイトに代わったが、デル・トロ映画の愛らしさがきっちり引き継がれているのが気持ちいい。
中でも注目なのは、前作に続いて登場するオタクな博士コンビの描かれ方。それぞれのキャラクターや行動も、2人の関係性も、ああ、この2人ならきっとこうに違いないと思わせるのだ。2人が予想以上に大活躍してくれるのも嬉しい。
もちろん、デナイト監督は「デアデビル」「スパルタカス」で鍛えた身体VS身体のアクションの演出力を発揮。大怪獣や巨大ロボットを動かすのは初めてだが、その重量感、破壊力を充分に堪能させてくれる。