移動都市/モータル・エンジン (2018):映画短評
移動都市/モータル・エンジン (2018)ライター5人の平均評価: 2.8
宮崎駿アニメを実写化したら、こんな感じ?
移動都市が生き残りをかけて戦うディストピアという設定も顔に傷を持つヒロイン、ヘスターの復しゅう劇にもさほど興味が抱けなかったが、移動しながらトランスフォームする都市やユニークな造形の飛行船が降り立つ浮遊都市にはウキウキ。宮崎駿先生の名作『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』などにインスパイアされたのか? 原作の世界観を再現するために凝りに凝ったため、役者陣が薄くなったのは仕方なし。とはいえ『マトリックス』のネオばりのクールなアクションでヘスターたちを助ける空賊アナ・ファンを演じるジヘの圧倒的な存在感は魅力的。彼女が操る赤い飛行船とともに強い印象を残した。
冒頭の「都市vs都市」バトルの映像は、とにかくスゴい
ピーター・ジャクソンのWETAが自慢のテクノロジーを駆使した、冒頭の「都市が都市を食らう」前人未到ビジュアルに異様な興奮を味わった。その後、博物館には同じユニバーサルの人気キャラが「遺跡」として展示されてるなど、ディズニー風の遊び心で笑わせ、どういうノリで進むのかと期待は高まる。しかしヒロインの物語になると、人造人間といった特殊キャラの役割もどこか取ってつけたようで、迷走状態に……。後半の飛行船や巨大な壁を使ったアクションも壮大なのだが、登場人物たちの強い思いが伴ってないと勢いはつかない。冒頭の動く都市が圧巻だっただけに、やはり映画はストーリー、そして全体の構成力だとつくづく実感する。
出オチ感ハンパない“ピージャクの動く都市”
“都市が都市を喰らう”オープニングのスケールのデカさに加え、スチームパンクな世界観に圧倒される。だが、そこからは失速しまくり。身内の裏切りやレジスタンスの存在など、既視感しかないジュブナイルSFが展開し、「“実写で『ハウルの動く城』”やってんじゃん!」な流れが続く。そして、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』オマージュにしか見えないクライマックスに突入! 孤高のヒロインと人造人間(ストーカー)の関係性や、ガジェットのデザインなどは興味深いものの、やはりヒューゴ・ウィーヴィング以外、しっかりスターオーラを放つキャストが不在で、129分の尺を引っ張るのは、かなり厳しかった。
巨大な空間、巨大な建造物に魅了される
まず空間の巨大さに魅了される。空の下には荒野しかなく、その上をごく少数の"移動する"都市"が這い回る。大規模都市が、猛獣が小動物を捕食するように小都市を食らう。そういう世界が19世紀ヨーロッパの風景絵画のタッチで描かれる。加えて層構造の巨大都市ロンドンの造形が見事。聖パウロ大聖堂、トラファルガー広場のライオン像、博物館や地下鉄駅構内など、ロンドンを象徴するデザインを取り入れつつ、歴史と風格を漂わせる独特の巨大構造物が出現。監督は「ブレインデッド」以来ピーター・ジャクソン監督作のストーリーボードを担当してきたクリスチャン・リヴァーズ。監督がやりたかったのは、この異世界の創造だったのに違いない。
未来のヨーロッパ情勢を占う(?)ようなSFアドベンチャー
文明崩壊後の地球。荒廃した砂漠地帯で僅かな資源を喰い尽くした巨大移動都市ロンドンが、壁の向こうに広がる楽園のごとき平和共同体シャングオを武力で侵略しようとする…という、まるでブレグジット後のヨーロッパ情勢を占うようなプロットが皮肉にも感じられるSFアドベンチャーだ。スチームパンク的な世界観で統一されたビジュアルは壮観だが、しかしストーリー展開は予定調和の連続で、全体的に既視感を覚えることは否めない。それでもなお、クライマックスの全面戦争は血沸き肉躍るし、若手を中心としたキャストにも魅力がある。中でも、宝塚の男役を彷彿とさせる韓国系女優ジヘのクールで颯爽とした雄姿は文句なしにカッコいい。