イット・カムズ・アット・ナイト (2017):映画短評
イット・カムズ・アット・ナイト (2017)ライター4人の平均評価: 4
火事場のナイーブ少年は残酷な夢を見る
未知のウイルスの蔓延は、あくまでスリラーの取っかかり。”夜にやってくる”恐怖は別のところにある。
過酷な状況から家族を守ろうとする父にふんしたジョエル・エドガートンは主演には違いないが、主人公はむしろ思春期のその息子。ウイルス以上に身内の死や、厳格な父を恐れ、訪問者の家族に安らぎや家庭り温かさ、そして訪問者の妻に性的欲求を覚える。それらが混然一体となり、どうしていいのかわからなくなるのが、本作の恐怖の本質だ。
そういう意味ではサバイバル・スリラーと言うよりも心理スリラー。少年が夜ごとに見る悪夢こそが、真に恐ろしい。新星K・ハリソンJr.の好演にも注目。
差別と分断の行く末に警鐘を鳴らす悪夢的な寓話
何らかのパンデミックが勃発した世界。感染を恐れて森の中の一軒家に立てこもり、外部との接触を断って厳格なルールのもとで暮らす一家が、都会を逃れてきた見知らぬ家族と共同生活を始めるものの、やがてお互いの些細な誤解や行き違いが溝を生んでいく。最後の最後までパンデミックの正体が分からない、登場人物たちも実は全く知らないというのがミソ。その漠然とした恐れが他者に対する不信感を増大させ、過剰な防衛本能が惨劇をもたらす。これは、日本を含む世界中で広がる差別と分断の行く末に警鐘を鳴らす悪夢的な寓話。不安と恐怖がいかに人間を残酷な行為へと走らせるのか。戦慄のクライマックスは、とても他人事とは思えない。
登場人物も会話も最小限でいて、物語は深い
"それ"は夜にやってくるーーこのタイトルは正しい。この宣言ゆえに、最初からいったい何がやってくるのかと考え続けながら見ることになり、緊張を緩めることができない。そして遂にそれが出現したとき、深くうなずかされてしまう。
登場人物も会話は必要最小限だが、人物たちの心理状態は細かに描かれる。夜は、室内灯の暗い橙色。昼は、森の沈んだ緑色。夜と昼は、色相は補色関係でどちらも暗い。
監督は、前作「Krisha」がゴッサム・アワード新人監督賞など多数のインディ系映画祭で話題を集めたテリー・エドワード・シュルツ。新作がルーカス・ヘッジス主演のミュージカル「Waves」だというのも気になる。
ネオホラー/スリラーの潮流を目撃する意味でも必見
『イット・フォローズ』や『ドント・ブリーズ』、そして『クワイエット・プレイス』まで痺れてきた観客ならコレも見逃すわけにはいかない。傑作『ゲット・アウト』や『IT』等も含め、米社会の不安や軋みを高度な映画術で反映する流れ。ホラー/スリラーのヌーヴェルヴァーグと言っていいほど先端的な現象だ。
『クワイエット~』と本作はディストピアSFの貌を備えており、終末的寓話の中で家族(身内)主義が打ち出されるのがいかにもアメリカ映画だなと。ジョエル・エドガートンは『ウォーリアー』から続く「守る男」の無骨な魅力を発揮。カルメン・イジョゴとの人種融和的なキャスティングは『ラビング』を受け継ぐものかとも思う。