マローボーン家の掟 (2017):映画短評
マローボーン家の掟 (2017)ライター4人の平均評価: 4.3
スペイン語圏の映画界には鬼才がいっぱいですね
ポスターなどの絵柄で“ホラー”と理解しているが、舞台となる屋敷の朽ち果て感や一家のくたびれた旅衣服などで冒頭から不穏さを感じる。牧歌的な幸せを満喫していた子供四人にある悲しみを与え、その後に続く恐怖を際立たせる。また悲しい出来事から半年ほど時間を飛ばす展開で観客に「何が起きたのか?」と疑問を持たせるのも脚本家でもあるS・サンチェス監督の腕の見せどころだ。長兄ジャックの頭部の傷や鏡を布で覆って幽霊屋敷のようになった家といった謎めいた設定の理由が明かされる終盤の疾走感に引き込まれた。ちょっと強引な部分もあるが、恐怖と優しさを混在させたストーリーが絶妙。絵本仕立ての一族の物語の愛らしさが切ない。
陽光が降り注ぐ家、胸を締め付ける物語
大自然の緑に囲まれた一軒家は、開け放たれた窓から眩しい陽の光が降り注ぐ。しかし、その家で暮らすマローボーン家の兄弟たちには秘密があり、室内の影には何かが潜んでいる。その明るさと暗さのコントラストが美しく、その魅惑的な映像で描き出される物語は、あまりにも切ない。
加えて、兄弟たちのあやうさ、彼らが出会う少女のすこやかさの対比も魅力。兄妹弟役の「はじまりへの旅」のジョージ・マッケイ、「サスペリア」のミア・ゴス、TV「ストレンジャー・シングス」のチャーリー・ヒートン、三者三様の不安定さ。彼らの前で、少女役の「ミスター・ガラス」のアニャ・テイラー=ジョイが瑞々しい生命力を輝かせる。
切なくも哀しいスパニッシュ・ホラーの佳作
かつてヨーロッパのホラー映画大国と言えばイギリス・イタリア・スペインだったが、その中で今もなお気を吐いているのはスペインのみ。全編英語のアメリカを舞台(ロケ地はスペイン)にした本作も、スパニッシュ・ホラーの伝統と格式を感じさせる佳作だ。時は’60年代、小さな町はずれの古びた一軒家に子供たちだけで暮らす4人兄妹。妹や弟を児童福祉施設に奪われまいと母親の死をひた隠しにする長男だが、実はこの家にはもう一つ、誰にも知られてはならない忌まわしい秘密が隠されていた。監督が『永遠のこどもたち』の脚本家だけに、なんとも切なくて哀しいお話。長男役ジョージ・マッケイの繊細な危うさも魅力的だ。
心の風景のいちばん深いところに降りていく
J・A・バヨナ監督『永遠のこどもたち』『インポッシブル』の脚本家、セルヒオ・G・サンチェスの監督デビュー作。ほとんど三部作と呼びたくなる腑に落ちすぎる流れで、特に前者と今作はワンセットの趣。『永遠~』の母性に対し、こちらは父権がキーポイント。呪われた暴力装置、逃れがたい宿命としての父親の影が一家あるいは兄妹を支配し続ける。
一見すると古典的な屋敷ホラーの作りだが、見据えているのはあくまで「人間」。生と死、現実と幻想を超えた視座で救済の形が考察される。家族や親子といったコアな共同体を再定義する際の痛みから染み出す、胸をぎゅーっと締め付ける詩的な抒情。哀切美に満ちたホームドラマの傑作だ。