ベイビー・ブローカー (2022):映画短評
ベイビー・ブローカー (2022)ライター4人の平均評価: 4
ドリームチームなキャスティングに魅了される
おなじみの疑似家族な展開など、別に日本映画として撮ってもおかしくない是枝裕和監督作だが、冒頭の『パラサイト 半地下の家族』感から、程よい塩梅で韓国映画のテイストと融合していく。韓国映画界のドリームチームともいえる豪華キャストを堪能する一作であり、是枝監督がドラマ「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」のイ・ジウンに惹かれ、ソヨン役に抜擢しただけに、このドラマ好きなら思わずニンマリなシーンも用意。ただ、正直なところロードムービーとしては想定内の展開であり、どこかインペクトに欠ける。そんななか、ライティングが見事な洗車シーンと観覧車シーンに関しては、息を呑むほど印象的だ。
生まれてくる子供たちに対する社会と大人の責任を問う
赤ちゃんポストに預けられた子供を、金儲け目的で横流ししている男性コンビが、ひょんなことから赤ん坊の母親と養父母探しをすることなり、その過程で疑似家族のような絆が生まれていく。現代社会における家族の意味や形を問い、社会の片隅で暮らす弱者の声なき声を拾いあげ、罪を犯さねばならぬ事情を抱えた人々に慈しみの目を向ける。そういう意味で非常に是枝監督らしい映画だし、『万引き家族』と対になる作品とも言えるだろう。全ての命は等しく尊いはず。生まれてきた子供たちの誰もが幸せになれる世界を、我々大人はどうすれば実現できるのだろうか。社会と大人の責任が問われる。
家族って何かな?
是枝裕和監督×ソン・ガンホ、これにぺ・ドゥナにカン・ドンウォンと惹かれる並びですね。
赤ちゃんポストに子供を託した若い母とその赤ちゃんを売ろうとするブローカーコンビ、そして彼らを追う刑事の物語はいつの間にかロードムービーに。良い人と悪い人の中間にいるような人たちばかりが登場して、何とも言えない可笑しさを醸し出します。誰も血がつながっていないのに家族になっていくのが是枝監督作品らしいです。
ソン・ガンホは流石の巧さですね、群像劇ですが、やはり彼が主演と言っていいでしょう。そしてキーパーソンと言えるIU(イ・ジウン)がまた良かったです。テーマがテーマなので韓国・日本双方の反応が楽しみな一本です。
気がつけば観客も家族の一員になっていく是枝マジック
多様な「家族」を描いてきた監督なので、得意テーマに自分なりの創意工夫を注ぎ込んだ印象。名匠の演出と脚本に安心して身を任せられる。
前半こそ「なぜ?」と腑に落ちない状況がいくつかあり、たぶんリアルなんだと納得し…を繰り返しつつ、登場人物と旅を続けるうちに彼らの絆に心が染まり、一人一人に尊厳を与えるセリフに強烈に射抜かれてしまう。
外国で撮る監督の「旅人目線」映像も随所に。
ソン・ガンホがカンヌで受賞したが、カン・ドンウォンとイ・ジウンの表情の方がいつまでも脳裏に焼きつく。観覧車でのやりとりは光の美しさとともに屈指のシーンとなった。エンディングも『パラサイト』と対比し、しみじみ噛みしめる。