アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者 (2017):映画短評
アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者 (2017)ライター2人の平均評価: 3.5
「美とスタイル」とは心の在り方
黒人男性として初めてファッション業界に影響力を持った編集者であり、惜しくも昨年コロナ感染で亡くなった世界的なファッション・アイコン、アンドレ・レオン・タリーの素顔に迫るドキュメンタリー。まだジム・クロウ法が健在だった南部の貧しい黒人家庭に生まれ育った彼は、それゆえの揺るぎない反骨精神と向上心で自らキャリアを切り拓き、ダイアナ・ヴリーランドやカール・ラガーフェルドら手厳しい大御所からも才能を認められる。絵に描いたような成功譚だが、その地位に決して驕ることなく若い世代を積極的にサポートし、マイノリティに寄り添い続けたその姿勢こそが真のレガシーだろう。彼の言う「美とスタイル」とは心の在り方なのだ。
強烈な人物の言葉が、パワーを注入してくれる
『プラダを着た悪魔』でスタンリー・トゥッチが演じた人物のモデルといえば分かりやすいが、2022年に73歳で没したこの人物は、はるかに強烈。南部出身でアフリカ系で大男でゲイで、ニューヨークのメトロポリタン美術館衣装研究所顧問時代のダイアナ・ヴリーランドの助手で、ファッション誌『ヴォーグ』のアフリカ系初のクリエイティブ・ディレクター。そういう人物が、自分が何の創造を目指したのかを語るが、それがファッションではなく「スタイル」だと言うのを聞いて、膝を打つ。彼が啓示を受けたのは図書館で出会った『ヴォーグ』誌だったが、その啓示を別の何かで受けた人にも、彼の言葉はパワーとエネルギーを注入してくれるはず。