トンソン荘事件の記録 (2023):映画短評
トンソン荘事件の記録 (2023)ライター3人の平均評価: 2.7
地味ながらも説得力のある韓流ホラー・モキュメンタリー
30年前に釜山の安ホテルで起きた殺人事件の謎を追うテレビ取材チーム。その証拠ビデオに写り込んだ怪しげな人影と声に気付いた彼らは、やがて陰惨な一家惨殺事件との奇妙な繋がりを発見する…というファウンドフッテージ形式のモキュメンタリーだ。基本スタイルは深夜にテレビ放送されそうな「迷宮入り事件」の追跡ドキュメント。調査を進めていくうちに次々と不可解な出来事に見舞われるが、しかしそれが本当に心霊現象なのかどうかは疑問の余地が残る。この絶妙な匙加減が本作の要であろう。引き合いに出されがちな『女神の継承』や『呪詛』などに比べると地味な映画だが、だからこそのリアリティと説得力があるように思う。
途中からドキュメンタリー風じゃなくなっていくホラー
ある猟奇殺人事件の調査を記録した映像をめぐるドキュメンタリー風ホラー。序盤は淡白だが、祈祷師が出てくる中盤あたりからドキュメンタリー感がほとんどなくなっていくのが面白い。怖い映像は折々で挟まってくるが、物語の軸が見えづらく、どうも盛り上がりに欠けてしまう。途中に「福祉院」が登場するが、これは実際にあった「兄弟福祉院事件」がモデルだろう(開設していた年代が同一)。障がい者や浮浪者など3000人を強制収容し、強制労働や暴行によって500人以上が亡くなった。こういう話を知れば知るほど、「怖いのは幽霊より人間」という気分になってくる。
煽りまくって、墓穴掘る
一部のホラーファンの中で話題になっていた『マルイ・ビデオ(原題)』だが、オープニングで、おどろおどろしいナレーションで煽りまくってくれるも、殺人現場に残されたビデオテープに映っていた幽霊の正体探しという、かなり既視感ある展開が続く。モキュメンタリーの割には、映像の質感や役者の芝居もかなり劇映画っぽいこともあり、普通にホラーを観ているような感覚に陥るが、決して褒められるレベルでもない。中盤より祈祷師が出てきたり、取材班にも災難が襲い掛かる展開に関しては、『女神の継承』『呪詛』あたりを狙ったと思われるが、もちろん足元にも及ばず。ときどき挟まれるイメージカットの雰囲気だけはいい。