田中泯はアーティストではなく“踊る人” 死ぬ瞬間まで「踊り続ける」
ダンサーの田中泯が29日、都内で行われた映画『名付けようのない踊り』の公開記念舞台あいさつに犬童一心監督と出席し、「踊り」に対するこだわりが詰まったトークを繰り広げた。
【画像】76歳・田中泯が探し続ける踊りとは…『名付けようのない踊り』ビジュアル
『名付けようのない踊り』は、映画『るろうに剣心』シリーズや『HOKUSAI』など俳優としても活動する世界的ダンサー・田中泯の踊りと生きざまを追ったドキュメンタリー。『メゾン・ド・ヒミコ』で彼を起用した犬童監督が、2017年から2019年まで世界各地で踊る田中を撮影。『カフカ 田舎医者』などの山村浩二によるアニメーションを織り交ぜながら、その人物像を紐解く。
田中は本作について、「田中泯という奴の話ではなくて、踊るというものが僕にもたらしてくれた、たくさんの物事に全身で感謝するといいますか……」と説明すると、「死ぬ瞬間まで踊り続けるというか、僕の一生はそうでした。それだけは継承し(てもらい)たい」と作品に対する熱い思いを打ち明ける。
そして、最近は「アーティスト」という言葉が氾濫していることに疑問を投げつつ、「田中泯はアーティスト(と言う人もいるが)、冗談じゃございません。わたくしは踊る人です」と力を込めた。
熱心に語る田中は、「観る人間と踊っている人間が発した何かが合ったり、ズレちゃったりするので、目だけで見ると、ことは変わってきちゃう」と踊りの特異性に言及。「よく外で踊っていました」と話すと、「地面も、植物も、動物たちも、空も、太陽も、月も、星もあるし、空気が動き回っている。そういうものが僕の体や粒子に触れたりしながら空間を作っている。木が揺れたり、雨が降れば、おそらく粒子はこの感覚をいち早く察知してくれる」と踊りは当事者だけで成立するものではないことも強調した。
そのため、「そういうのが映らない映像は、すごくつまらないものだと思っていました。自分の踊りをビデオテープに映しているのは大嫌い。ましてや、それを人様に見せようとは思っていない」とこだわりを見せ、本作の公開に関しても「非常に不思議な気分です」と吐露した。
そんな田中に魅了された犬童監督は、「普段映画を作っていると『わかりにくい』と言われ、編集で直したりする」と苦笑いしつつ、「泯さんと一緒に映画を作ると、そういうところから離れられる。簡単に言語化できないことを無理に言語化せず、長い時間かけて積み上げないとわからないんだったら、長い時間かけようぜという人」とうれしさをのぞかせる。さらに、「撮影中に気をつけていたのはインタビューをしないこと。(インタビューをすると)的確に話をされる方なので、踊りを勝手に観て撮って、編集しながら考えて、時間をかけて作っている間が楽しかった」と満足そうに語っていた。(錦怜那)