サードシーズン2010年1月
私的映画宣言
ロンドンをぶらついている途中、たまたま上映開始時間だったリチャード・リンクレイターの新作『Me and Orson Welles』を観た。オーソン・ウェルズが演出する舞台の裏話で、演劇&映画好きにはたまらん内容。ザック・エフロンも好演!
私的1月公開作のオススメは、何年かに1本の「男子共感度満点」恋愛映画『(500)日のサマー』(1月9日公開)。
アレキサンダー・マックイーンのナックルクラッチバッグは身の丈外価格で買えないけど、ナックル・リングなら購入できそう。でも、どこから見ても「ケンカ上等!」指輪。ジュエリーというより武器な外見にお悩み中。
私的1月公開作のオススメは、『パーフェクト・ゲッタウェイ』(1月23日公開)のパーフェクトじゃないゆる~い出来上がりがいいですね。もちろん、ティモシー・オリファントの締まった美尻も!
1月はファンタジーだけでなく、大好物のスリラーも充実。『パラノーマル・アクティビティ』『エクトプラズム 怨霊の棲む家』と注目作が並ぶ。デヴィッド・トゥーヒー祝・復活の『パーフェクト・ゲッタウェイ』にもシビレた!
1月公開作のほかのオススメは『(500)日のサマー』(1月9日公開)。
11月某日、クエンティン・タランティーノと朝まで飲み明かす。ここでは書けないあれこれを目の当たりにした、ワイルドかつクレイジーな夜でした。クエンティン、終始超ハイパーで面白かった。彼が本当にハードコアな足フェチだということが、よくわかりました……。
私的1月公開作のオススメは、『パラノーマル・アクティビティ』(1月30日公開)。
試写室では一番前で観るのが、結構好きなんですが……『かいじゅうたちのいるところ』で一番前に座ったら、かいじゅうたちのタックルシーンの激しさに目が回り、人生初めての「映画酔い」(恥!)、おかげで二度観ました。
私的1月公開作のオススメは、『ユキとニナ』(1月23日公開)。『かいじゅうたちのいるところ』とは違った視点で子どもの孤独を描く。9歳の女の子のいじらしさにキュンと胸が締め付けられる。
かいじゅうたちのいるところ
世界中で愛されている絵本「かいじゅうたちのいるところ」を実写化したファンタジー・アドベンチャー。原作者モーリス・センダックたっての希望により、『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』のスパイク・ジョーンズがメガホンを取る。冒険の旅に出る少年には、子役のマックス・レコーズを抜てき。マックスの母親を『カポーティ』のキャサリン・キーナーが演じる。スパイク・ジョーンズ監督ならではのセンスが光る怪獣たちのビジュアルを堪能したい。
[出演] マックス・レコーズ、キャサリン・キーナー、マーク・ラファロ
[監督・脚本] スパイク・ジョーンズ
VFXの究極を競う映画が氾濫(はんらん)し、多少のことでは驚かなくなったが、このかいじゅうたちには「本当に生きているかも」と錯覚をおぼえた。着ぐるみの動きがとことん愛らしいうえ、表情はCGとは思えないナチュラルさ。悲しそうな目なんて、俳優の演技も超えているよ! 短い物語の絵本を、その精神を崩さず、ここまで膨らませられたのは、スパイク・ジョーンズの、子どものままのピュアなハートによるものか。ファンタジーの原点に浸った、至福の時間でした。
絵本を知っていただけに実写映画化に疑問を持っていたが、完成作品を観た瞬間、スパイク・ジョーンズの創造性に感服してしまった。彼が描いた幼い少年マックスの心の旅路はリリカルでありながら切なく、ファンタジックでありながらリアル。観る側に相反する感覚を抱かせるが違和感はなく、99パーセント忘れかけている幼いころの自分を刺激してくれる。監督と脚本家が作り上げた少年とかいじゅうのバックストーリーの真摯(しんし)さに涙。声優も素晴らしいが、かいじゅうの着ぐるみを着た役者陣のフィジカル演技にも拍手を送りたい。
あの短い原作を、よくぞここまで膨らませたものだと、まず感心。その「膨らみ」が大人の鑑賞に耐えうるドラマとして機能しているからお見事。かいじゅうの島がただ楽しいだけでなく、エゴによって簡単に崩壊する他者との関係を浮き彫りにした辛らつな視線。そのエゴ込みで全部受け入れる、無償の愛が見えたラストが泣ける。かいじゅうのぬいぐるみ的な安心感や、ヤー・ヤー・ヤー・ズのカレン・Oによる素朴な音楽の肌触りもよく、シミた!
CGに頼らないで、着ぐるみを重宝した手作り感も魅力的だし、そこにこそアニメではなく実写映画化した意味があると感じた。二頭身かいじゅうたちの暴れっぷりに子どもたちはぎょっとするかもしれないが、大人にも子どもにも訴えかけるメッセージが込められた、テンダーで愛すべき作品。かいじゅうたちは、孤独、怒り、恐怖といったマックスの心のメタファーであり、それを正面から見据え対峙(たいじ)できたとき、彼は自分の本当の居場所を見つけることができるのだ。カレン・Oの歌声も、心に染みる。
冒頭、ワーナーのロゴに子どもっぽいイタズラ書きがあるところから、いい年した大人もやんちゃだった子どものころに引き戻してくれる。そして、大人にかまってもらえないマックスの日常の描写と、彼の心情をフォローする音楽が見事にシンクロして、原作の絵本にはない世界を広げながらも原作のイメージを損なわない。スパイク・ジョーンズってば、やっぱりすごかったんだ! デカくてキモかわいいかいじゅうたちの表情もいとおしい。特に、キャロルが鼻水垂らしてイジけたり、ブチ切れたりする姿には泣ける。案外子どもより、孤独を囲っている大人の心をわしづかみしそうだ。
Dr.パルナサスの鏡
ヒース・レジャーが参加できなかった鏡の中のパートを、3大スターが代役で演じるが、3人それぞれの顔に、ある一瞬、ヒースが生き写しになっていた。思い込みだろうけど、そう見えたのは、キャストとテリー・ギリアム監督の強い信念が映像に焼き付けられたからだろう。相変わらずストーリーは、ややとっ散らかり気味。でも、これもギリアム映画の魅力と受け止めたい。大蛇に変わる川、『バロン』を連想させる気球、アジア風の神殿etc.と、不思議ビジュアルの洪水に酔える。
テリー・ギリアム監督のキッチュなイマジネーションが生きたファンタジーだ。悪魔と契約を交わした博士や「欲望を具現化する」鏡イマジナリウムなど寓話要素をあちこちにちりばめ、人生の意味を問いかけていく。哲学的な雰囲気もあるが、ギリアムが暴き出す欲望はかなり俗人的で、他人事として笑えもするのがポイント高し。ヒース・レジャーの他界は残念だが、そのために生まれた「鏡に入り込むたびに自身の異なる面を見せる」青年の存在が物語をさらに深くしたのは事実。不幸から生まれた珠玉の作品に合掌。
近年のギリアム作品はホント、やりたい放題やっているなあ……という印象を受けるが、本作もイマジネーションは狂い咲き。鏡の中に入れば、そこは森になり砂漠になり空になる。「ヒドい日常より面白い想像を」という思想は『バロン』に通じるものがあるが、こっちの方がより奔放。こんな独創的すぎる作品がファン以外の観客に受け入れられるのか不安はあるが、キャストが華やかだから、まあいいか。そもそも同一キャストを全然似ていない4人で演じ分けるという発想自体、奔放過ぎる。
テリー・ギリアムの真骨頂ともいえる、マジカル・ファンタジー・ワールドの映像美ときめこまやかな色彩のバランス感覚がとにかく素晴らしく、魅惑的で心躍った。その怪しげで深遠なる世界観と、切り絵など遊び心満載の映像トリックも含め、映像の魔術師であり天才アーティストでもあるギリアムの集大成ともいえる崇高にして壮大な作品。ヒロインを演じるスーパー・モデル、リリー・コールのゴージャスな肢体がまぶしいが、そのルックスはマンボウを彷彿(ほうふつ)とさせるものがありますね?
テリー・ギリアムが想像力の大風呂敷を、広げに広げてクリエイト。ヒース・レジャーが生きていればと悔やまれるが、ジョニー・デップらお助け役者たちのおかげで、ギリアム節がさらにさく裂した感じ。妖しくもめくるめく幻想世界にトリップさせてくれる。個人的にツボだったのは、クリストファー・プラマー。『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐がこんな白塗りお化けになるとは驚きだが、80歳を過ぎても頑張る姿を見るにつけ、人間、長生きしてこそなんぼのものとしみじみ。ドラマ「不毛地帯」の主題歌で、ちまたで注目のトム・ウェイツが悪魔役。ニヤつく顔がたまりませーん。
ラブリーボーン
14歳で殺されてしまった少女が、残された家族や友人たちが立ち直っていく姿を天国から見守り続けるファンタジックな感動ドラマ。全世界30か国以上で1,000万部以上を売り上げた原作を、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督という豪華布陣で映像化。主人公の少女役は、『つぐない』のシアーシャ・ローナン。前代未聞の物語設定と、少女が起こす奇跡に注目。
[出演] シアーシャ・ローナン、マーク・ウォールバーグ、レイチェル・ワイズ
[監督・製作・脚本] ピーター・ジャクソン
わたしは天国からみんなを見守る……。このシチュエーションは「千の風になって」のようで、日本人の死生観で共感できる設定かも。家族それぞれのドラマや、犯人の過去へも広がりを見せる原作と違って、よりスージーの思いに軸を置いた展開は映画として大正解。シアーシャ・ローナンの天才的演技もあって、死後と現世のリンクが心を揺さぶることになった。そしてピーター・ジャクソンの演出力は緊迫のサスペンスシーンでさえわたる。特別出演もヒッチコック的!
望まぬ死を遂げた14歳の少女スージーが天国とこの世の境に踏みとどまり、家族の行く末を見守る物語。彼女の「成仏できない」もやもや感や妹に追い越された思春期少女らしい嫉妬(しっと)をヒロイン役のシアーシャ・ローナンがみずみずしく熱演。彼女の演巧者ぶりに殺人鬼役スタンリー・トゥッチ以外の共演者がかすんでしまった。『乙女の祈り』でも感じたが、ピーター・ジャクソンは心の奥に乙女を飼っているのではないだろうか? それほどにスージーの感受性はビビッド。ただ、彼女がいる世界映像に関してはありきたり感が強く、コミカルだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』の例を出すまでもなく、ピーター・ジャクソンは原作の重要なエッセンスを正確に抽出できる監督であることを再認識。ファンタジーとスリラーの融合という娯楽的な面はもちろん、魂の再生というテーマも深みがある。「あの世」と「この世」をリンクする映像術に幻惑され、ドールハウスの窓から見る現世の奇妙な「ゆがみ」にジャクソンの本領を見た。ストーリー的には原作のファンには驚きはないかもしれないが、ビジュアル面では確実に驚きがある。
原作にあったショッキングかつヘビーなキーワードと、それに呼応したクライマックスの究極のロマンチック(ドラマチック)シーンをどう映像化するのか? という点に注目していたが、映画の中ではさすがに、その二つの重要な要素がすっぽり抜け落ちていた。これだけの大作だけに大衆向けに口当たりよく脚色しないといけないのはわかるが、その二つがないゆえコンパクトにまとまり過ぎて、ドラマ性も薄く凡庸なファンタジー・ドラマになってしまった。キャストのアンサンブルが最高なだけに、本当に惜しい。
14歳で殺された少女が自分の死後、家族が立ち直っていく姿を天国から見守る。喪失から再生へと向かう家族のドラマを中心に、サスペンス、ホラーにミステリーなどあらゆる要素がちりばめられている。てんこ盛りだ! しかも、あの世の描写はときに神々しかったり、ロクシタンのポスターみたいだったり(笑)、ちょい俗っぽいところも面白い。演じる顔ぶれも名優ぞろい。特にズラつけてロリコン男にふんしたスタンリー・トゥッチは相変わらず芸達者! というわけで見応えはある。スリリングでもある。でも、殺された人間の扱いに釈然とせず、気持ち悪さがモヤモヤモャ~。