ラジー賞に愛をこめて

文=相馬 学

 その年最高の映画を選出する米アカデミー賞が映画界最大の祭典であることはご存じの通りだが、その年最低の映画を決めるゴールデンラズベリー賞(通称:ラジー賞)も映画ファンにとって立派な祭だ。アカデミー賞は映画業界人によって選出されるが、ラジー賞は一般人を含むラズベリー会員によって選ばれる。プライドの高いハリウッド・スターでさえその行方を何気に気にしているし、もちろん世界中の映画ファンも注目しているのだから、これは祭と呼んで差し支えない。当然、アカデミー賞授賞式の前日である3月1日(日本時間3月2日)に発表される今年の第34回受賞結果もチェックを怠るわけにはいかない!

 今年の主役を務めそうなのは、日本では劇場未公開だったが全米では1憶ドル突破のメガヒットを記録したコメディー『アダルトボーイズ遊遊白書』で、全9部門中、作品賞など8部門でのノミネート。主演のアダム・サンドラーはご存じの通り米国では絶大な人気を誇っているコメディー俳優だが、実はラジー賞の常連で、一昨年は『ジャックとジル』で、昨年は『俺のムスコ』で主演男優賞を受賞しており、今年は3連覇の期待が掛かっている。このようなオバカ系コメディーはくだらなさを面白がる観客がいる一方で、くだらな過ぎると思う人もおり、その層がここぞとばかりにラジー賞に一票を投じる。そういう意味では今回6部門ノミネートの対抗馬『ムービー43』も同様だ。大スターをズラリとそろえて、これほどバカバカしいコメディーに仕上げたのはある意味、奇跡と言える。

 日本でも大ヒットした作品では、『ローン・レンジャー』が5部門、『アフター・アース』が6部門で候補に。前者のジョニー・デップ、後者のウィル・スミスといった大スターも、それぞれの主演男優賞、助演男優賞に容赦なく(?)ノミネートされている。スクリーンの外でも目立ってしまうセレブはラジーの場でやり玉に挙げられる傾向があり、『スティーブ・ジョブズ』のアシュトン・カッチャーや、主演女優賞にノミネートされたセレーナ・ゴメスやリンジー・ローハンは、まさにその典型。意外なところでは、演技派女優として名をはせてきたナオミ・ワッツが、今年は『ムービー43』と『ダイアナ』の合わせ技で堂々ノミネートを果たしてしまうのだから面白い。

 ファンの中には、お気に入りの映画やスターのノミネートに“なぜ?”とショックを受ける方もいるかもしれないが、気に病む必要はまったくナシ。日本でもラジー賞をまねたワースト映画賞がいくつかあり、中には選者が悪意と共に真剣に投票するケースもみられるが、ラジー賞の場合は基本的にジョークである。ハル・ベリーやサンドラ・ブロックといったアカデミー賞女優が、こちらの授賞式にも出向いて面白おかしいスピーチを聞かせたのも、この賞を冗談と受け止めていることの表れだ。そんな具合なので、ラジー賞は“そんなにヒドい映画なら一度見てみよう”くらいの感覚で笑って楽しむのが正しい。何より、祭は楽しくなければいけないのだから。

筆者プロフィール:

相馬 学(そうままなぶ) / 映画周りのフリーライター。シネマトゥデイなどのweb媒体や、「ブルーレイ&DVDでーた」「SCREEN」「シネコンウォーカー」などの雑誌、劇場用パンフレットなどに寄稿。A級大作からZ級ダメ映画まで、エンタメ志向で雑食中。昨年の愛すべきダメ映画では『ライジング・ドラゴン』に一票を投じたい。3月に日本公開される『マチェーテ・キルズ』もグダグダで最高!