アカデミー賞にまつわるお金の話

文=猿渡由紀

 アカデミー賞発表まで、あとわずか。授賞式を主催する映画芸術科学アカデミーも、受賞を狙うスタジオやスターも、ラストスパートを掛けている時期だ。それはつまり、莫大(ばくだい)なお金が動く時期であることも意味する。ロサンゼルス市の試算によると、オスカーが同市の経済に貢献する額は、なんと1億3,000万ドル(約130億円)。アカデミーが授賞式のために費やすお金はおよそ3,800万ドル(約38億円)だが、リムジンやホテル、レストラン、花屋、ヘアスタイリスト、フェーシャリスト、メイクアップアーティスト、ネイリストなど、波及効果はありとあらゆるところに及ぶ。観客に見えないところで、アカデミーやスタジオは、果たしてどれほどのお金を使っているのか? ここで一部だが、例を挙げてみよう。

○ハリウッド業界全体がオスカーのために1年に費やす金額:1億5,000万ドル(約150億円)


○アカデミー賞授賞式のホストのギャラ:1万5,000~2万5,000ドル(約150~250万円)

昨年のホスト(司会者)は、監督・脚本などを務めた『テッド』(2012)の大ヒットで一躍注目されたセス・マクファーレンだった。今年はアメリカで大人気のコメディアン、エレン・デジェネレスが2度目のホストを務める。

○オスカー像:1体につきおよそ900ドル(約9万円)

オスカー像はスズと銅の合金の上に24K(カラット)の金メッキをしてできているため、金の相場によって値段は変わる。上記の金額は昨年度のオスカー像の試算。

○会場のセキュリティー:2万5,000ドル(約250万円)

セレブリティーが集まるイベントだけに、最高に厳しいセキュリティーは不可欠。イベントの何か月も前から計画とトレーニングが必要となる。

○受賞者の名前が書かれた封筒と中身のカード:1万ドル(約100万円)

プレゼンターが「And, Oscar goes to…….」と言って開けるあの封筒と中身のカードは、ステーショナリー・デザイナーのマーク・フリードランドが手掛けるもの。

○レッドカーペット:2万5,000ドル(約250万円)

会場前のレッドカーペットは、長さ約152メートル、幅10メートル。

○各スタジオがオスカーキャンペーンのために使う金額:300万~2,500万ドル(約3億~25億円)

映画1本当たりのキャンペーンに使われるお金の平均はおよそ500万ドル(約5億円)。

○「ニューヨーク・タイムズ」紙に出すキャンペーン広告料:5万~10万ドル(約500~1,000万円)


○業界内向けに組む試写会イベント:1回およそ3,000ドル(約30万円)


○投票者に作品本編の入ったDVDを送るための経費:100万ドル以上(約1億円以上)

DVD自体は1枚2ドル(約200円)程度だが、凝ったパッケージ、デリバリーサービスなどを入れると、一つのDVDを一人の会員に届けるのに200ドル(約2万円)近くかかることもある。なお、アカデミー会員は約6,000人。

 スターもまた、オスカー獲得のために自腹を切る。オスカー前の2か月ほど、スターたちがパブリシティ用のバジェット(予算)を、月々5,000ドル(約50万円)から1万ドル(約100万円)ほどアップするのはよくあること。メディアへの露出度をいつもより増やし、アピールをするためには、パブリシスト(宣伝・広報担当者)代が余計にかかるだろうし、人前に出るのに伴う諸経費もかかるのだ。そうまでしてオスカーを望むのは、虚栄心のせいだけではない。オスカー俳優になった途端、それまで出演料50万ドル(約5,000万円)程度だったのが、一気にミリオンダラー級になれたりするのだ。スタジオにとっても同じ。例えば、『アバター』(2009)を破って第82回アカデミー賞の作品賞などを獲得した『ハート・ロッカー』(2009)は、オスカー後に3,100万ドル(約31億円)もDVDを売り上げている。

 年に一度の華やかなイベントは、スターにとってもスタジオにとっても一生を左右する真剣なプロジェクトなのだ。

※文中( )内の日本円は1ドル=100円で計算

プロフィール:

猿渡由紀(さるわたりゆき) / 映画ジャーナリスト。東京で女性誌編集者を務めた後、渡米。L.A.を拠点に、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事、撮影現場レポートなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿。カンヌ映画祭も毎年取材している。