座談会メンバー:くれい響、相馬学、中山治美、山縣みどり、森直人 司会:今祥枝
司会:みなさんの個人的な「推し作品」からお願いします。
山縣:わたしは『アメリカン・ハッスル』がイチオシ。デヴィッド・O・ラッセルが大好きというのもあるけど、今度こそ作品賞、監督賞と併せて取らせてあげたい! 『ザ・ファイター』(2010)も『世界にひとつのプレイブック』(2012)もダメだったから、三度目の正直ということで。
くれい:僕は、何といっても『ゼロ・グラビティ』。作品賞と監督賞で『ゼロ・グラビティ』か『アメリカン・ハッスル』かというところで、テレコになる可能性もあるけど、個人的には作品賞は『ゼロ・グラビティ』、監督賞は『アメリカン・ハッスル』のラッセルというのが理想です。
森:『ゼロ・グラビティ』は僕も別格に好きだし、作品賞の中で未見の作品もあるけど、この時点での推しは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』か『ダラス・バイヤーズクラブ』。
相馬:どれか一つを推すとしたら『ダラス・バイヤーズクラブ』かな。もし『ワイルド・スピード EURO MISSION』なんかが入っていたら、「もう俺、絶対これじゃないと嫌だ!」って思うかもしれないけど、そこまで熱くなれるようなタイトルが今年はないからなあ。全部イイ映画なのだが。
山縣:“俺心”に響く映画がないのね。でもオスカーで『ワイスピ』はないでしょ!(笑)
中山:確かにどれもいい作品だけど、今年は何だかテンションが上がらないというのはあるかもね。昨年は『アルゴ』のベン・アフレックが監督賞にノミネートされてないじゃん! みたいな、いじめられっ子のような映画があったから応援したくなって燃えたけど……。
司会:では受賞予想。『それでも夜は明ける』がくるでしょうか?
山縣:やっぱりそこだよね。世界中に「申し訳ございませんでした」っていう、アメリカの良心的な、ね。でも、こういう映画を観るとわたしたちが習ってきた歴史って違うのかなと、分からなくなってくる。
相馬:客観的に観たときに、黒人が主人公の映画がアカデミー賞の作品賞を取ったことってありましたっけ? シドニー・ポワチエの『夜の大捜査線』(1967)はアカデミー賞作品賞を受賞しているけど、主演男優賞を取ったのはポワチエじゃなくロッド・スタイガーだし。
山縣:デンゼル・ワシントンは?
相馬:『トレーニング・デイ』(2001)でデンゼルが、『Ray/レイ』(2004)ではジェイミー・フォックス、で『ラスト・キング・オブ・スコットランド』(2006)のフォレスト・ウィテカーも主演男優賞を受賞しているけど、作品賞受賞作はないよね。だから、僕は案外、『それでも夜は明ける』は取らないんじゃないかという気がする。しかもプロデューサーがブラッド・ピットでしょ。作品賞を取ったらブラピが壇上に上がるんだよ!
山縣&中山:いいじゃん!(笑)
相馬:そりゃ、われわれはいいかもしれないけど、アカデミー会員が「いいじゃん」と思うだろうか。あと、映画のクオリティーには関係ないけど、プロデューサーが一番「イイ」白人の役をやっているって、どうなのかなあ。
山縣:ブラピは、本当はマイケル・ファスベンダーがやった役をオファーされたけど断ったんだって。「俺にはできない」って。あとスクリーンタイムが多いから、プロデューサーとしては「自分は裏方」っていう意識があったんじゃない?
相馬:え~、でもだったら出演するなよ、って話じゃない。それが鼻につくと感じるハリウッドの人たちはいるかもしれないよ。
山縣:大工さんの役っていうのが面白かったけど。ここでも建築家の役をやりたいのかって。(笑)
※ブラッド・ピットは建築ジャンキーとして知られている
相馬:作品賞は『ゼロ・グラビティ』だと思う。だってこれ、全米監督組合(DGA)賞を取ったじゃない。取ったら9割方、作品か監督賞は取るでしょう。大体、アカデミーの監督賞と作品賞って10回に9回は一致するから。で、去年一致しなかったばかりだし、今年はどっちも取っちゃうんじゃないかなあ。とはいえ、『ゼロ・グラビティ』にも不安はあって、脚本賞とか脚色賞にノミネートされていない作品が作品賞を取ったケースは、そんなにはないんだよね。
山縣:だから、わたしは『ゼロ・グラビティ』は視覚効果とか技術的な部門では取るかもしれないけど、作品賞は無理じゃないかなと思う。
相馬:さかのぼってみると、『タイタニック』(1997)は脚本賞&脚色賞にノミネートされずに作品賞を取ったケースに当てはまるけど。
森:今年は作品賞候補が9本だけど、ずっと5本だった同賞のノミネートがいきなり10本に増えた年が2010年。それまでアカデミー賞はもっと保守本流みたいなイメージだったんだけど、それが成立しなくなった、というのが印象としてまずあるんですよね。ちょうどリーマンショック以降、景気が悪くなってきているというのもかぶっていて、近年は小粒な作品同士の接戦、混戦が作品賞で起こっているんだろうなと。で、パッとラインナップを見ると、スタジオ別というのが象徴的ですよね。
中山:確かにスタジオ別という印象は強い。日本アカデミー賞みたいに、ハリウッドも今年は自分のところのどの作品を推すとか、組織票がモノを言うのかも(笑)。
森:そのせいで、ほかの前哨戦みたいな賞と差をつけるのが、かなり難しくなってきているんじゃないかと思うんですよ。となると、ここは『アメリカン・ハッスル』かなあと思ってしまう。アカデミー賞は一番業界的な事情が総合的に反映される賞でもあるので、外部からはゴシップも絡めて妄想と憶測を働かせるしかないんだけど(笑)。ラッセルは『ザ・ファイター』『世界にひとつのプレイブック』のホップ・ステップもあるし、旬の匂いがする。『ゼロ・グラビティ』は作品の革新性でいえばダントツだと思うけど、方法論として俳優を除外する方向の映画ではあるので、『アバター』(2009)のパターンに近くなるのかなと。まあこれだけ混戦状態だと、一番祝祭感のある『アメリカン・ハッスル』流しでいくのが堅い気が。
中山:ホップ・ステップでいえば『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックィーンもそう。『ハンガー(原題) / Hunger』(2008)は日本では公開されていないけど、その後、『SHAME-シェイム-』(2011)もあって。
山縣:でも、まだ新人だよね?
中山:監督としては新人だけど、この人はアーティストとしても有名で、業界的な注目度は高いと思うんだけどね。俳優部門でも、ファスベンダーもきっちりノミネートされているから、ちゃんと『SHAME-シェイム-』とセットで見ている人たちがいるんだなと。ただ、『SHMAE-シェイム-』に比べて、今回はそこまでインパクトはなかったと思うから、おそらく2人とも前回ノミネートに至らなかったことも考慮されての、今回の候補入りなのかもしれない。ただ、『それでも夜は明ける』は延々虐待シーンで2回観たいとは思わないかな……。
くれい:正直、日本人がどうこう言える映画ではないですよね。だから面白い、面白くないというのは言えないんだけど、この手のタイプの映画ってオスカー好みで、さらりと取りそうな気がするわけですよ。で、去年、自分は『リンカーン』を最有力候補として挙げたんですけど見事ハズれた(笑)。ということは、そういうパターンもあるから取らないかもって思ったり。『ゼロ・グラビティ』は、『タイタニック』以来、こういう映画が取ってもいいんじゃないかと思わせるぐらいの力はあったと思いたいな。
山縣:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の線は全くナシ? 最近、マーティン・スコセッシはハリウッドに、とっても愛されていると思うけど。
相馬:アカデミー賞って、必ず殿堂枠みたいなものがあるじゃない? それこそ主演女優賞枠のメリル・ストリープとかジュディ・デンチとか、こんな立派な人たちがノミネートされました、この人たちに勝つ人がこの中にいます、というような当て馬的なポジションってあるじゃないですか。
山縣:スコセッシは当て馬ポジなのか!(笑)
司会:作品賞で落選したけど、これは言っておきたいという作品はありますか?
山縣:『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』は入ってもよかったと思う。素晴らしい作品だと思っているから。あんなにセリフがなくても、ロバート・レッドフォードの気持ちが伝わってくる。レッドフォードも、それなりに年老いた男を演じていて。
相馬:前哨戦で評価が高かったコーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』とか、『LIFE!』なんかも入ってもよかったと思うけど。
中山:『LIFE!』は入らないと思う。1コマのネガ探しで115分も引っ張るとは。
相馬:あんなにイイ映画なのに!(笑)あと、個人的には『ラッシュ/プライドと友情』。
中山:アメリカ人はF1に興味ないから無理でしょう。
くれい:『ラッシュ/プライドと友情』は、嫌いだという男の人にあまり会ったことがないよ。
森:僕も最高に良かった。
山縣:うーん、わたしがいいと思ったのはダニエル・ブリュールだけだったかな。
中山:わたしは好きだよ。『ゼロ・グラビティ』よりも『ラッシュ/プライドと友情』の技術の方がビックリした。
くれい:『ウォルト・ディズニーの約束』が主要部門にまったく引っ掛からなかったのは、前評判からすると意外だった。もう少し評価されてもよかったような。
山縣:エマ・トンプソンがゴールデン・グローブ賞ドラマ部門ではノミネートされていたけど、アカデミー賞では全然ダメだったね。今年はディズニーは、アニメーション部門の『アナと雪の女王』にひたすら力を注いだ感じ?
本命『アメリカン・ハッスル』
次点『ゼロ・グラビティ』
案外なさそう『それでも夜は明ける』
司会:監督賞に行きましょう。これまでの話の流れからいくと、やはりキュアロンとラッセルの闘いでしょうか?
山縣:個人的にはラッセルに取ってほしいけど、キュアロンも好き。
くれい:僕もどっちも好きだけど、理想はラッセル。
相馬:取ってほしいのはラッセル。
森:取ってほしいのはキュアロンだけど、取るだろうと思うのはラッセル。
中山:でも、ハリウッドではラッセルって評判悪いんだよね~。
山縣:『スリー・キングス』でジョージ・クルーニーとケンカしたからでしょ?
相馬:彼って、アンガーマネジメントが必要だった過去があるでしょ? 感情をコントロールできなくてすぐカッとなってしまう。だから『世界にひとつのプレイブック』の主人公は監督本人だ、っていう話があったじゃないですか。
山縣:インタビューなんかを読むと、最近「イイ人路線」になってきているけどね。
くれい:僕は最初、ラッセルは苦手だったんですよ。最近、本当にうまくなってきているなあと思うようになって、『アメリカン・ハッスル』が、その極め付きだったんですけど、実はアレクサンダー・ペインも推したいところ。無理だろうなとは思うけど……。
相馬:『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』はイイ映画だったよね。撮影賞あたりは取ってほしいな。
中山&山縣:撮影賞は『ゼロ・グラビティ』でしょう!(笑)
相馬:え~、あれは撮影がすごいのかな。あの映画は何がすごいんだろう……? 分からなくなってきた(笑)。ペインは『サイドウェイ』(2004)と『ファミリー・ツリー』(2011)で脚色賞を取っているよね。監督賞ももらってもいいと思うけど、今回取るのはキュアロンだと思う。
司会:これまでに名前が挙がらなかったのはスコセッシだけですね。この線は完全にないと。
山縣:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、嫌な人ばっかり出てくる映画だからね~。
相馬:そんなこと言ったら、『アメリカン・ハッスル』だってイイ人なんて一人も出てこないよ!(笑)
中山:スコセッシの場合、過去作品との比較になってしまうから不利だよね。
山縣:彼の場合、『グッドフェローズ』(1990)か『レイジング・ブル』(1986)であげるべきだったよね。
相馬:いつまでたっても、その話になるよね(笑)。
山縣:『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のJ・C・チャンダーは、これが2本目だからなのかもしれないけど、もうちょっと評価されてもいいんじゃないかなと思った。
相馬:『her/世界でひとつの彼女』のスパイク・ジョーンズなんて、入ってもよかったんじゃないかと思うよ。
山縣:素晴らしかったよね! スコセッシいらないから、彼に入ってほしかったよ。
相馬:そう、もうちょっと若い人たちを評価してほしいな。
森:スコセッシ御大がずいぶんイジメられてますが(笑)、僕は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』って狂い咲きの会心作だと思いますけどね。でも時代の流れとしては、むしろスコセッシ・チルドレン的なラッセルが有利。あと『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレはひたすら役者を立てる演出に徹したから賞レース的には損だけど、本当に良い裏方仕事をしたと思う。
相馬:確かに!
本命デヴィッド・O・ラッセルがややリード? ほぼタイでアルフォンソ・キュアロン
司会:俳優部門に行きましょう。主演男優賞の推しから。
中山:デブか痩せの戦いでしょ。ドM対決(笑)。
山縣:わたしはマコちゃん(マシュー・マコノヒー)だな。でも、ブルース・ダーンはこれまでハリウッドに散々尽くしてきたから、功労賞的な意味合いで票を入れる人がいるかも。
相馬:気持ち的にはそれもありますけどね。僕があげたいのはブルースだけど、客観的に見るとこの人最近、悪いうわさに巻き込まれたじゃないですか。タランティーノの新作がポシャった(脚本リーク)騒動に絡んでいるでしょう? 取るのはマコノヒーだよね。
くれい:取ると思うのはマコノヒー。推しメンとしては、レオナルド・ディカプリオを挙げたいけど、無理だろうなあ。
森:僕は取るも推しもダントツでマコノヒー。彼は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にもすごいインパクトで出ているじゃないですか。それが何となく加点になるような。
中山:『マジック・マイク』(2012)でもサブだったけど、貢献していたしね。
森:もちろんディカプリオもむちゃくちゃ良かったですけどね。『ウルフ~』は、政治的には大御所枠かもしれないけど、自分的にはスコセッシ映画のベスト3に入りますから。
山縣:ちなみにそのベスト3は?
森:ロバート・デ・ニーロと組んでいた時代の代表作『タクシードライバー』(1976)『グッドフェローズ』に匹敵(ひってき)するくらい好きですよ。今回は後期代表作というか、ディカプリオとのタッグが軽みでこそ活きることを探り当てた気がします。とはいえ、やっぱり業界的な旬の感じはないので、主演賞として集中するのはマコノヒーでしょうね。
中山:わたしは取るも推しもボンゴです。
※マコノヒーは深夜の街で半裸でコンガをたたきまくって逮捕されたことがある。
山縣:ちなみにボンゴではなくコンガというアメリカの楽器なんだよ(笑)。わたしは推しメンはキウェテル・イジョフォーで、取るのはマコちゃんだと思う。
司会:落選した人については?
相馬:それは『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のレッドフォードでしょう。
山縣:すでに監督賞を取っているからダメなのかしら?
相馬:監督としても役者としても成功している人たちって、なかなか主演男優賞を取らないよね。イーストウッドも取っていないし、メル・ギブソンも取っていないし。
司会:トム・ハンクスは要らないですか? あとはフォレスト・ウィテカーとか。
山縣:いらないなあ。『キャプテン・フィリップス』も『ウォルト・ディズニーの約束』も。
相馬:ウィテカーはいい役だったけどね。
司会:ホアキン・フェニックスは?
中山:彼はまだ「ウソ引退」のみそぎがすんでいないからダメ(笑)。
司会:主演女優賞はいかがでしょう。予想だと『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットが濃厚ですが。
相馬:もう確実でしょう。
くれい:僕はサンドラ・ブロックが取ったらいいなと思う。『ザ・ヒート(原題)/ The Heat』が良かったので、コメディーもシリアス路線もどちらもできます! だし、『ザ・ヒート~』はアメリカでヒットしているというのもプラス要素かな、と。まあでも、ケイトにはかなわないよね。
相馬:僕は特に推しはなくて、普通に予想するとケイト。エイミー・アダムスもこれが5回目のノミネートだから、そろそろ取らせてあげたい気はするんだけど。
山縣:『アメリカン・ハッスル』のエイミーはノーブラにおヘソ出しルックスでステキだったわ~。
中山:エイミーはイギリスなまりの英語を現地の人たちがどう評価しているのか、気になるところ。そういう細かいところは、わたしたち日本人にはよく分からないと思うけど、現地の人たちはものすごく評価しているのかもしれない。あと、どうしてもエイミーよりもジェニファー・ローレンスが前に出てしまうのがかわいそうで……。
山縣:エイミーは『her/世界でひとつの彼女』も良かったよね。
相馬:『her~』は援護射撃になるんじゃないかな。
司会:候補から落選した女優で残念な人は?
山縣:『ウォルト・ディズニーの約束』のエマ・トンプソンじゃない?
くれい:僕は『とらわれて夏』のケイト・ウィンスレットが良かった。
山縣:椅子に縛られているところとか(笑)。
相馬:そういう、何か“萌え要素”がある女優がいたら良かったんだけどなあ。
山縣:“俺たちの女優”的な?(笑)相馬さんのアンバー・ハードの時代はいつ来るのかしらね?
相馬:そうそう。みんなそれぞれ実績がありすぎて、個人的な思い入れを持っても面白くない人たちばかりなんだよね。いかにも「あたし女優よ!」みたいな感じの顔ぶれだから、なんかもう「はい、どなたでも……」と引いてしまうというか。
森:前哨戦の流れからいったら、結局他の賞とかぶっちゃいますけど、主演女優賞はやはりケイト・ブランシェットが堅いのでは。
山縣:でも、『ブルージャスミン』のウディ・アレンは、反ウディ・アレンのキャンペーンでつるし上げられて大変な騒ぎになっているよね。ゴールデン・グローブ賞の生涯功労賞をもらったことに対して、7歳のときに性的虐待を受けた養女が「わたしはひどいことをされて、そんな小児性愛者にハリウッドが尊敬の念を持つのはおかしいじゃないか」とニューヨーク・タイムズにオープンレター(公開状)を出したの。裁判にはなっていないけど、実際に何が行われていたのかはわたしたちには分からないわけですよ。
中山:養女を妻にしている時点で「そんなの、もう知ってます」という感もあるけど……。
山縣:アメリカは小児性愛者に対してものすごく厳しいから。
中山:でも、過去にも小児性愛者が賞を取ったことあるよね。『戦場のピアニスト』のロマン・ポランスキーだけど(苦笑)。そんなこと言ったら、粉とかDVとか危ない人だらけじゃん。
山縣:でも、この中で起訴された人はいないよ。
相馬:起訴されたら、それこそキャリアが終わるから(笑)。
司会:助演部門に行きましょう。
山縣:推しはマイケル・ファスベンダーで! だって黒人から怒りを集める役柄じゃない? よくやったなあと思った。もう「パッツィー!」(※ファスベンダー演じる農園主にもてあそばれる女奴隷の名前)って呼ぶ時に狂気が宿っているのよ。でも、取るのはジャレッド・レトーだと思う。
森:ファスベンダーは、演技の質としてはダントツじゃないかと思う。あの変態性を出せる人は他には考えにくい。ただ、「分かりにくい」名演かもしれないね。一方のレトーは「分かりやすい」。
相馬:正直、助演はどちらも予想がつけづらいんだけど、推しはジョナ・ヒルかな。頑張って金魚食ってたじゃないですか! えらいなと思った。
山縣:小川真由美も食べたけどね!(『食卓のない家』(1985)で精神を病んだ母親役で金魚を食べた)。ジョナ・ヒルは嫌な人を演じているから毎日、罪悪感がこみ上げていたんだって。それを克服しての熱演!
相馬:でも、やっぱり取るのはレトーかな。この人、痩せたっていうことはもちろんだけど、元々すごく男っぽい人なんだよね。バンドをやっていたり。男っぽい、むさくるしいイメージがあったんだけど、多分言われないとレトーだとは分からない人もいるんじゃないのかな。
中山:すごくきれいだった。
相馬:あと、その前に逆にものすごくデブになって出た映画『チャプター27』があったでしょ。やっぱり役者ってすごいんだなあと思った。
森:僕は、推しは、1にファスベンダー、2にジョナ・ヒルで、取るのはレトー。
山縣:うーん、わたしはジョナにはこれでは取ってほしくないな~。
司会:ブラッドリー・クーパーは名前が挙がらないですね?
森:ちょっと落ちますよね。
相馬:『アメリカン・ハッスル』組って、これだけ入っていると、誰か一人が光っているという感じでもないから。
森:クリスチャン・ベイルが取れなくてクーパーが取るというのは、作品のバランス的にも考えにくい気がする。
中山:個人的にはレトー。カンヌ国際映画祭の時に『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)で元カノのキャメロン・ディアスが壇上にいる脇でレトーがカメラマンをしていたの、記録係として。そういう時代があってのここだから、「ああ、ようやく」という感じがあって。
山縣:『レクイエム・フォー・ドリーム』(2001)の時にあげたかったよね。ミュージシャンとしての彼のファンとかは、小さいハコでやっていたから一緒に写真を撮ってもらっていたりしていたみたい。
中山:そう、彼、すごくイイ人。そのカンヌの時、声をかけたらちゃんと返事してくれた。
くれい:僕は、推しも取るもレトー。だって、ひょっとしたらこれはマコノヒーよりも取る確率の高い役だと思うので。ジョナ・ヒルは良かったけど、まだ早いよね。というか、まだ若手がワシャワシャいる中にいてほしいんですよ。
山縣:(ジャド・)アパトー組とか?(笑)
くれい:そうそう、ここでオスカー俳優っていうのは、ちょっと違うかなと。
山縣:脚本とか、そっちの方で先に取る可能性の方が高いかもね。
くれい:そういえば、大事な人について語ってないですよ! ジョージ・クルーニーが候補に入ってないというのは大問題でしょう。
山縣:え~、仮にノミネートされたとしても主演じゃないんだ?(笑)
くれい:もちろん助演ですよ。
相馬:確かに“俺たち心”としては、あのジョージを推したい気持ちはわかる(笑)
山縣:こんなおしゃべりな宇宙飛行士いるの? って思ったわ。
相馬:思うに、ジョージは幻影として出てこなければノミネートされていたかもしれないよ(笑)。いきなりドア開けて入ってきたときは、ちょっと笑っちゃったんだけど。
山縣:『ゼロ・グラビティ』はキュアロンの息子さんが脚本を書いているけど、あの場面の脚本はジョージが書いているのよ。
くれい:さすがジョージ!
相馬:だから脚本賞にノミネートされなかったのか! ジョージのせいだ(笑)。
中山:そこまでジョージの評価は高いのか!?(笑)
くれい:いや、むしろサンドラの主演女優賞よりも、ジョージの助演男優賞の方が有力だと思っていたぐらいで。
相馬:サンドラも確かに素晴らしいけど、彼女の騒がれ方に比べたらジョージはスルーされている感は否めないよね。
くれい:あとは『ウォルト・ディズニーの約束』のポール・ジアマッティあたりも、入っていてもいいような役でしたよね。
山縣:彼はよかったわー。あとこの映画では、コリン・ファレルもよかったわよね。
司会:助演女優賞に行きましょう。
山縣:何となく毎年一枠ぐらいはあるサプライズとか一発屋枠的なところで、『それでも夜は明ける』のルピタ・ニョンゴがくるのでは。『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』ジューン・スキップも、「いるよねえ、こういうおばあちゃん」ていう感じですごく良かった。
相馬:ルピタさんなのかなあ。推しとしては『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンス。『ハッピー・ゴー・ラッキー』(2008)の時に、あれほど多くの賞で評価されたのに、アカデミー賞だけが無視したから、みそぎノミネートというのもあるとは思うけど、ブルーカラーっぽさがすごく出ていてよかったな。
くれい:僕の推しはジューン・スキップ! なんだけど、サリーがサラッと取ってくような気がする。『ブルージャスミン』を観ている時に、『いとこのビニー』(1992)のマリサ・トメイぽい雰囲気があるなと思って。マリサも、割とどうでもいい役なのにサラッと取ったから、そんなことが起こりそうな気がした。
森:僕も推しはダントツでジューン・スキップ。気になるのは、『アメリカン・ハッスル』が俳優の全部門でノミネートされていて、誰か取るとしたらジェニファー・ローレンスなのかな、と。ただ2年連続というのは考えにくいというのはあるんですけどね。
山縣:まだ23歳でしょう? その若さで2年連続受賞ってあり得るのかしら。
森:でも、逆に言うとネックなのはそこだけで、去年がなければ絶対にジェニファーが有利だと考えると、あり得ると思う。
相馬:前哨戦では、割とジェニファーが取ってるしね。
山縣:彼女、業界内での評判はすごくいいのよね。性格がいいみたい。『her/世界でひとつの彼女』のスカーレット・ヨハンソンは、声だけの出演だからダメとか話題になっていたけど良かったわよね。
中山:あの酒焼けした声がね。(笑)
主演男優賞:大本命マシュー・マコノヒー 大穴ブルース・ダーン
主演女優賞:大本命ケイト・ブランシェット 次点エイミー・アダムス
助演男優賞:大本命ジャレット・レトー 次点マイケル・ファスベンダー 大穴ジョナ・ヒル
助演女優賞:ジューン・スキップを推す声が多いも、サリー・ホーキンス、ジェニファー・ローレンス、ルピタ・ニョンゴと意見は分かれた。
司会:その他、技術部門等で何か言いたいことがあれば、自由にどうぞ。
山縣:助演女優賞で芦田愛菜さんが候補になってないわ、と思ったけど、そういえば『パシフィック・リム』は完全にスルーされてるのね。
相馬:あ、ほんとだ。音響も視覚効果も入ってない。
くれい:俺たちの「リム」が……。
中山:ここだよね、わたしたち日本人的に声を大にして言いたいのは。「リム」の何がいけないんだっていう。(笑)
相馬:視覚効果賞は、確かにどれも派手な映画ばかりだから埋もれちゃうのも仕方ない気もするけど。
中山:いや、埋もれないでしょ! アカデミー会員に嫌われたとしか思えない(笑)。アメリカ映画だと思われていないのかも。あと、あれも入ってないよ、『オブリビオン』も。
山縣:えー、あれはいいんじゃないの(笑)。
中山:トム造(トム・クルーズ)のザ・ハリウッド的な『オブリビオン』が入らないなら、メキシコ人監督の『パシフィック・リム』は無理だよねっていう。ハリウッド映画って見られてないんじゃないの。
くれい:そうなのか!?(笑)
森:みんな「リム」には熱いなあ。
相馬:個人的には、『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』が音響編集賞といわれても、それがどれほどすごいのか、よく分からない(笑)。
山縣:波の音じゃないの? わたしは『ローン・サバイバー』に取って欲しいわ。
相馬:音響編集賞と音響調整賞に入っているから、やっぱりあの、谷間の戦闘シーンの銃の反響音が高く評価されているのかな。
くれい:でも、『ローン・サバイバー』はそれだけの映画じゃないから、他の賞にも入ってほしかったですけどね。
山縣:そこは『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)みたいな重さが足りなかったのかもね。
中山:それこそ、視覚効果は『ラッシュ/プライドと友情』は入ってもいいんじゃない?
くれい:ほんとに無視されていますね。これもアカデミー会員に嫌われたか(笑)。
相馬:しかし、こうやってみると今年のメイクアップ&ヘアスタイリング賞の3本が、『ダラス・バイヤーズクラブ』と『ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中』と『ローン・レンジャー』って、なんだかスゴイな(笑)。
山縣:ここに『アメリカン・ハッスル』が入ってないのが解せないわ~。衣装デザイン賞は、絶対『アメハス』だと思う。
くれい:衣装デザイン賞に『グランド・マスター』が入っているけど、なぜ外国語映画賞に入っていないのかが香港では話題になっていて。
中山:うーん、もしかしたら去年の『愛、アムール』みたいに、ハリウッドの作品賞候補になる可能性のある、普通の作品として扱われたのかな? 英語作品じゃないのにね。
くれい:公開されたバージョンは、本国とアメリカでは違うみたいですが。
山縣:アメリカとイギリスの配給はワインスタイン・カンパニーでしょ? お金を出しているから、衣装デザインとか、そういうハリウッドベースの部門には推したのでノミネートされたんじゃない? お金の問題だと思うな。
くれい:だとすると、他では候補になっても外国語映画賞では落選するということはあり得るわけですね。
中山:ちょっと話は違うけど、昨年、作品賞と外国語映画賞の両方にノミネートされた『愛、アムール』、一昨年の仏映画だけど作品賞を受賞した『アーティスト』とか、外国映画の扱い基準がよく分からない。
山縣:アカデミー賞は、作品を観てない会員が、知っている名前があるものに投票するとか、真偽は定かではないけれど透明性に欠ける部分は、近年、特に指摘されているよね。無記名投票ではなく、誰が何に投票したかを開示するべきだという意見もあるけど、わたしは賛成だわ。
相馬:確かにそれもありだよね。まあでも、あまり深刻に受け取らないで、年に一度のお祭りだと思って気楽に楽しむのがいいよ!
司会:そうですね。良くも悪くも毎年一つ二つはあるサプライズも含めて、日本時間3月3日の授賞式を楽しみましょう!
今祥枝(いまさちえ) / 映画・海外ドラマ ライター。「BAILA」「eclat」「日経エンタテインメント!」「日本経済新聞 電子版」「東洋経済オンライン」ほかにて連載・執筆。時々、映像のお仕事。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。
くれい響(くれいひびき)/1971年、東京都出身。惜しくもオスカーレースからハズれた『LIFE!』劇場パンフに「ベン・スティラー論」寄稿。気持ちはすでに、東京国際映画祭で上映済みの『激戦』VS“現代版『男たちの挽歌』”『掃毒』の予感大の香港アカデミー賞に!
相馬 学(そうままなぶ) / 映画周りのフリーライター。シネマトゥデイなどのweb媒体や、「ブルーレイ&DVDでーた」「SCREEN」「シネコンウォーカー」などの雑誌、劇場用パンフレットなどに寄稿。A級大作からZ級ダメ映画まで、エンタメ志向で雑食中。昨年の愛すべきダメ映画では『ライジング・ドラゴン』に一票を投じたい。3月に日本公開される『マチェーテ・キルズ』もグダグダで最高!
中山治美(なかやまはるみ) /スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。「週刊女性」「GISELe」「共同通信47ニュース」「日本映画navi」などで執筆中。デイリースポーツWeb版「映画と旅して365日」の連載を始めました。
森 直人(もりなおと) / 映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)、『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「テレビブロス」「週刊文春」「週刊プレイボーイ」「メンズノンノ」「SWITCH」「クイック・ジャパン」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。
山縣みどり(やまがたみどり) / ライター兼編集者。「an・an」や「ELLE」、「GQ JAPAN」「BRUTUS」などにインタビューや映画評、セレブ関連記事などを寄稿。ここ数年は趣味の観劇にいそしみ、年に2回ずつブロードウェイとウエストエンド詣でに精と貯金を使い果たしています。この10月にはユアン・マクレガーのブロードウェイ・デビューを見届ける気満々! 映画ではセス・マクファーレンの新作西部劇が楽しみ!