『悼む人』特集:名作からひも解く!大切な記憶を呼び覚ます「悼む人」四つの効能
70万部を突破する売り上げを記録し、舞台化もされた天童荒太の直木賞受賞作を『明日の記憶』の堤幸彦監督が実写映画化した感動作『悼む人』。亡くなった人が生前、「誰に愛され、愛していたのか」と記憶にとどめる行為を続ける主人公・坂築静人(高良健吾)。謎めいた彼が与えてくれる、あなたの中の大切な記憶を呼び覚ます効能を、「記憶」にまつわる名作&ヒット作のキーワードからご紹介します!
リュックを背に、日本各地を放浪する青年・坂築静人。彼は新聞や雑誌の記事をたどって、事件や事故で亡くなった人々を訪ね歩いている。彼が行っているのは、故人が誰を愛し、愛されていたのかを探り、死亡現場で彼らを悼むと共に自らの記憶に刻み込むこと。苦行僧のような静人の姿はインターネットを通して話題となり、いつしか「悼む人」と呼ばれることに。一体、なぜ彼はそのような行為をするのか? 彼を旅に駆り立てるものは何なのか……? 彼に関わることになる人々の人生に大きな影響を与えていく。
静人は旅の途中で、宗教家の夫(井浦新)を殺したという女性・倖世(石田ゆり子)と出会う。いまだ亡き夫に依存している倖世は、その魂に導かれるように悼みの旅に同行する。そんな倖世の姿は、別れた恋人の記憶を消そうとする過程で図らずも忘れたくない気持ちと葛藤することになる『エターナル・サンシャイン』の主人公を彷彿(ほうふつ)させる。愛の記憶は、あらゆる障害を乗り越える強さを持っているのだ。
参考作品『エターナル・サンシャイン』
日本公開年:2005年
監督:ミシェル・ゴンドリー
キャスト:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット
こんな作品が好きな人にもおススメ
・『ゴースト/ニューヨークの幻』
・『きみに読む物語』
・『スラムドッグ$ミリオネア』
各地を旅して人々を悼み続ける息子に複雑な思いを抱えながらも、彼の安否を気遣う母・巡子(大竹しのぶ)。一方、母を捨てた父への恨みを心の糧に生きてきた記者・蒔野(椎名桔平)は、静人との出会いを通し父の知られざる一面に触れてゆく。そんな親子の絆の強さを思い出させてくれる作品の魅力は、『6才のボクが、大人になるまで。』と共通する。同作は、少年の成長模様を12年にわたって追った作品。それぞれ違うかたちで子供の幸せを願う両親と少年の関係が印象的で、自分にとって誰よりも支えてくれる存在が家族なのだと、改めて気付かせてくれる。
参考作品『6才のボクが、大人になるまで。』
日本公開年:2014年
監督:リチャード・リンクレイター
キャスト:エラー・コルトレーン、イーサン・ホーク、パトリシア・アークエット
こんな作品が好きな人にもおススメ
・『ビッグ・フィッシュ』
・『リトル・ミス・サンシャイン』
・『そして父になる』
巡子は、病院での延命治療ではなく、残りの人生を家族と過ごすことを選ぶ。一方、静人の妹・美汐(貫地谷しほり)は、妊娠した矢先に婚約者から別れを告げられ、一人で子供を産んで育てる決意をする。絶望的な状況の中に置かれることで、人生において大切なものに初めて気付き変化していく人間模様は、23才で余命宣告を受け、妻、母、女としての使命を果たそうとするヒロインが涙を誘った『死ぬまでにしたい10のこと』と重なる。長さではなくどれだけ充実していたか、その密度こそ生きる喜びなのだと勇気づけられる。
参考作品『死ぬまでにしたい10のこと』
日本公開年:2003年
監督:イザベル・コイシェ
キャスト:サラ・ポーリー、マーク・ラファロ
こんな作品が好きな人にもおススメ
・『ライフ・イズ・ビューティフル』
・『ショー・シャンクの空に』
・『幸せのちから』
静人は旅の中で、いじめの末に息子を殺された夫婦と出会う。愛する者を奪われた憎しみにとらわれた者の姿は、『21グラム』で夫と2人の娘をひき逃げで殺されたヒロインを思い起こさせる。静人は、息子を殺した同級生たち、事実をねじ曲げて報道したマスコミを糾弾してほしいという母親の希望を拒絶。彼女にある言葉を告げるが、それは「遺(のこ)された者たちはどう生きるべきなのか」という普遍的なテーマに通じる衝撃的な言葉だ。
参考作品『21グラム』
日本公開年:2004年
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
キャスト:ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロ
こんな作品が好きな人にもおススメ
・『悲しみが乾くまで』
・『Love Letter』
・『きみの友だち』
© 2015「悼む人」製作委員会/天童荒太