『秘密 THE TOP SECRET』生田斗真インタビュー
第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に輝く清水玲子の人気コミックを、『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督が映画化した『秘密 THE TOP SECRET』。本作は警察庁のエリート集団・通称「第九」の捜査官たちが、被害者の脳に残された過去の記憶を映像化するMRIスキャナーで、未解決事件に挑む新感覚ミステリー・エンターテインメント。この作品で第九の室長・薪剛を演じた生田斗真は、他人の脳内をのぞく捜査により強烈なトラウマを抱えた頭脳明晰な主人公をどう体現したのか? 生田が普通の映画とは違う特殊な撮影を振り返った。
小手先では演じられないキャラクター
Q:第九の室長・薪剛を演じる上で心掛けられたことを教えてください。
薪は自分の中の深い闇やトラウマ、怒りなどをすべてお腹の中に収めて、そこに蓋をしているんですけど、それでもそれがにじみ出てしまっている。その漂っているものを表現する感覚でした。だから、撮影期間中は精神的にも体力でもかなり疲弊して、しんどかったですね。
Q:文字では「押し殺している感情が透けて見える」と書けますが、それを肉体で表現するにはどんな作業をするんでしょうか?
そこは、自分と監督を信じるしかなかったですね。ただ、人の脳内を常にのぞき見ていて、精神的にも危うい、本当に立っているのがやっとというキャラクターだったので、小手先では演じられなかったです。
Q:外見で意識されたことはありますか?
映画全体のトーンは若干近未来ですが、僕ら「第九」のメンバーのスーツはかなりオールドなデザインです。日本が裕福だった時代の形というか、衣装デザインの資料の中には白洲次郎さんや昭和天皇がカチッとした洋服を着ている写真があったので、外見はそんなところから入っていきました。
Q:劇中には、生田さん自身もMRIスキャナーを装着するシーンが出てきますね。
今回、人が頭の中で見たものを映像化するのは実際に可能なのか? ということを、スタッフが本当に細かく調べてくれたんです。原作の漫画とはたぶん若干違った表現方法になっているんですけど、映画では、生きている人間と死んだ人間の頭をコードで繋いで、生きている人間の体を通して映像化しています。そのやり方が一番現実に近い、というところまでスタッフがたどり着いて、そういう表現方法になったんです。それぐらい、かなり科学的な角度から攻めているんですよね。
脳内映像は怖いぐらいリアルに
Q:人の脳内を見ているシーンは、どんなふうに撮影されたんでしょうか?
あのシーンは、モニターの画面に貼ってある黒い布に向かって「何っ?」「これは一体?」みたいな感じで撮影しました。役者は大変だなって思いましたよ(笑)。
Q:生田さんもヘルメット型カメラをつけて脳内映像の撮影をされたそうですね。
初めての経験でしたね。「人が頭の中で見たものを映像化する」と文字では書いてあるし、漫画やアニメでは表現しやすいとは思うんですけど、映像でどうそこにリアリティーを持たせるんだろう? って撮影に入る前は思っていました。でもその方法で撮影したら、怖いぐらいリアルな映像になったのでよかったなと思います。小型のカメラを頭につけて、確かバッテリーみたいなものを背負っていろいろと試行錯誤しながらやりましたけど、あまり見たことのない映像になったんじゃないかなと思いますね。
Q:ほかの方も同じようにカメラを頭につけて撮影されていたと思いますが、客観的にその状況を見たりしましたか?
はい、見ました。それこそ松坂(桃李)くんがカメラをつけて、その松坂くんと僕が一緒にお芝居をするシーンでは、閉めきったセットの空間で二人だけでお芝居をしたんです。だから、僕も皆さんも初めてのことだと思うけど、スタッフ・クレジットにも主観映像撮影者として、生田斗真、松坂桃李……って載っているんです。スタッフとしてクレジットされることはなかなかないので、あれはうれしかったですね。
生田斗真が脳内をのぞきたい人物とは
Q:今回は共演者の方々も多彩ですね。
今回は本当にいろいろなタイプの役者さんがいましたね。それこそ、大森南朋さんのような先輩もいれば、岡田(将生)くんや松坂くんのような、少し下の世代がいたり、はたまた織田梨沙ちゃんのような新人の女優さんもいたりして、ウォ~中堅になったぜ! って実感しました(笑)。
Q:「脳内捜査」は現実の世界でも実現寸前まできているようですが、この捜査方法についてはどう思われますか?
そこはこの映画を観終わった後にお客さん同士で話し合ってほしいですね。検挙率は確実に上がるだろうけど、人が人の頭の中をのぞくというのは、セリフにもあるように「神の領域を侵してしまう」行為だと思うので、そこをどう考えるのか? っていうところだと思います。
Q:犯罪とは関係なく、生田さんが誰かの脳をのぞけるとしたら、のぞきたい人は?
ただの興味的なことだけで言うと、芸術家やゼロから何か物作りをする人たちの脳の中はどうなっているのか? 少しだけ興味がありますかね。横尾忠則さんなども、何でこんな変わった絵を描くんだろう? って気になります(笑)。
Q:この現場を経験したことで、自分の中で変わったこととか、役者人生に影響を及ぼしそうなことはありましたか?
今回はすごく辛くてしんどい役ではあったんですけど、目に見えて辛そうで心配される役ではないんですよね。すごく長いアクションがあったりすると「大丈夫ですか?」って言われたりするように、わかりやすく大変そうじゃないですか(笑)。気持ちをすべて押し殺して、何となく香ればいいという感覚だったので、そういう表現方法にチャレンジできたのはすごく大きかったのかなと思いますね。
Q:最後に、この映画をこれから観る人にメッセージをいただけますか。
主観カメラの映像があったり、サイエンス・フィクションっぽい雰囲気もあって、ちょっと日本映画っぽくないパッケージですけど、物語の核に迫っていくにつれて、薪の日本人らしい信念が浮き彫りになっていくんです。それは鈴木(松坂)に対する後悔の思いや、青木(岡田)を自分と同じ目に遭わせないように守らなければいけないという気持ちなんですね。僕は薪のそういった日本人らしいところがすごく好きだし、革新的なことをやりながらも、日本人っぽい、日本っぽい映画になったと思っています。ただ、新しいことをやりました! という映画にはなっていないので、そのあたりを楽しんでいただけたらうれしいですね。
取材後記
『予告犯』(2015)、『グラスホッパー』(2015)、そして本作と、受けの芝居に徹する繊細な役柄が続いている生田。本人も言っているように、それはどちらかと言うとあまり目立たない表現だけど、ハイレベルの演技力を求められるそんなキャラクターに敢えて挑戦するところが何とも彼らしい。言葉を選びながら撮影を振り返る生田は、薪とは違って表情も豊かだが、役と真っ直ぐ向き合う真摯(しんし)な姿勢には誠実な薪と重なる部分も。果たして、気持ちをグッと押し殺した役を務めてきた彼は、次に何を見せてくれるのだろう? しばらくは、目を離すことはできない。(取材・文:イソガイマサト)
映画『秘密 THE TOP SECRET』は8月6日より全国公開
©2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会