『怒り』容疑者役・森山未來&松山ケンイチ&綾野剛に課された究極のオーダーとは?
映画『怒り』で夫婦殺害事件の容疑者となる3人の男を演じた森山未來、松山ケンイチ、綾野剛に伝えた驚くべき演出を、李相日監督が明かした。
【動画】森山未來、松山ケンイチ、綾野剛が殺人事件の容疑者に!
夏の暑い日に八王子で夫婦殺人事件が起こるところから始まる本作は、事件から1か月後、千葉、沖縄、東京の3か所に素性の知れない3人の男が現れたことから巻き起こる狂おしい人間模様を描いた作品。千葉の漁港で2か月前から働き始めた田代を松山ケンイチが、沖縄の無人島で暮らすバックパッカーの田中を森山未來が、東京・新宿の発展場に現れた直人を綾野剛がそれぞれ演じ、この中に犯人がいると思われる。そんな特殊な構造を持った本作について、李監督は「原作者の吉田修一さんは小説を書いたとき、途中まで犯人をあえて決めなかったそうで。その感覚は映画でも大事だと思った」と振り返り、「映画でも3人を疑っていく緊張感を維持したかった」と語る。
さらに、「最初は、犯人ではない2人も『怪しく見える』よう気を張るんですよね」と意外な事実を告白。「もちろん怪しく見えなければいけないんですけど、役者があまり見え方にとらわれると見透かされてしまう。だから『素顔を見せまいとする心持ちを意識した方がいい。そうすることで周りが怪しんでいくから!』って言いました」。
なるほど、人間を真摯に見つめ続けてきた李監督ならではの言葉だが、「普段、人って無意識に、ヘンな奴だと思われないように注意しているものですよね。ただ“開こうとしない”だけで、相手を不安にさせていくと思うんです」と持論を言葉にする。その上で、「だからといって自分がヘンな人間じゃないってアピールしない人が犯人とも言い切れない。余計なことをしない生き方をしてきた人にとっては、それが自然なことですから」と、“人間”がパターンではくくれないことを強く訴えた。
つまり怪しいと思うのも、そういう人なんだろうと受け入れるのも、その人物と対峙した者の考え方次第。「疑う人、疑われる人、それぞれのキャラクターにとって何が真実なのか? ということだけを考えていけばいいと思って」と李監督。「あとはライティングなどの映画的な技術とあわせて考えていけば、自ずと答えは見えてくる」と極めてシンプルなスタンスで臨んだ撮影を振り返った。
果たして、3人の男を観て、あなたは真犯人を暴くことができるだろうか? 『怒り』は観る者の価値観や人の見方を試す映画でもあるのだ。 (取材・文:イソガイマサト)
映画『怒り』は全国東宝系にて上映中