編集だけで9か月!オスカー監督が描くロサンゼルス暴動のドキュメンタリー
第84回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画『アンディフィーテッド 栄光の勝利』の共同監督T・J・マーティンとダニエル・リンジーが、新たに手掛けたロサンゼルス暴動を題材にしたドキュメンタリー映画『LA 92』(原題)について、11月18日(現地時間)、ニューヨークの米映像博物館での試写上映後、Q&Aで語った。
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本作は、黒人タクシー運転手ロドニー・キングさんが、ロサンゼルス市警の4人の白人警察官から残忍な暴行を受けた姿がビデオに収められていたものの、暴行した警察官たちが無罪判決を受けたことで、長年鬱積していた黒人たちの不満が爆発。ロサンゼルス市内で略奪行為、放火、白人への攻撃など、6日間に渡る大暴動(ロサンゼルス暴動)が起きた史実を描いたもの。一般人が撮影した未公開のホームビデオ映像や、テレビ局では流せなかった映像などを中心にしたドキュメンタリーになっている。
編集だけでもおよそ9か月に及んだという本作の膨大なアーカイブ映像についてリンジー監督は、「リサーチチームが最初に集めた映像は約200時間だったけど、最終的には1,700時間にもおよぶ映像が集まったんだ。ほとんどのテレビ局には、ロサンゼルス暴動をまとめたテープが残っていたんだけど、僕らは元データが欲しくてね。最初は彼らも『ノー』と言っていたけど、最終的にナショナル・ジオグラフィックのサポートのおかげで、様々な映像を手に入れることができたんだよ」と振り返った。
実際に暴動を体験した当時の人々にはインタビューせず、未公開の映像も含めた既存のアーカイブ映像で本作を構成したことについては、「当時を回顧するような構成のドキュメンタリーではなくて、カメラの前でストーリーが展開される構成を望んでいたんだ。だから僕らは、既存のアーカイブ映像だけで、充分に構成できると信じていたよ」とリンジー監督。
一方、マーティン監督は「プロデューサーが僕らにデモ映像を見せてくれた時、その中に、崩壊した店の商品を盗んでいる黒人たちに向かって、ある老人が『俺もお前らのようにゲットー(貧困層の黒人やヒスパニックが住んでいたスラム街)で育った。でも、お前たちがやっていることは間違っている。これがブラックパワーなのか?』と問いかけているシーンがあったんだ。そんな生の声が、何よりもロサンゼルス暴動を雄弁に語っていると感じたし、若者に立ち向かう高潔な人の思いを失わずに、今作を手掛けることが僕らには重要だったんだ」と語り、当時の人々の感情を伝えるには、アーカイブ映像だけにこだわるしかないと考え付いたそうだ。
また、これまでロサンゼルス暴動を扱った映画では、当時のロサンゼルス市警の警察署長だったダリル・ゲイツを悪役のように扱う作品が多かったが、今作ではそのようなアプローチをしなかったことについてマーティン監督は、「確かに、アーカイブ映像でゲイツ元署長のやり方を非難し、暴動を彼の責任にして、我々が作り上げた社会、歴史のせいにしないようにもできたかもしれない。けれど、ある意味で前任者から体制を変えなかっただけにも思えたんだ。だから僕らは、彼だけを中心に描く気にはなれなかったんだよ」と説明した。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)