NYインディーズ系の旗手ハル・ハートリー監督を直撃!
1990年代にニューヨークインディーズ系の旗手として名をはせたハル・ハートリー監督が、初期の3作品『アンビリーバブル・トゥルース』『トラスト・ミー』『シンプルメン』をまとめたデジタルレストア版『ロング・アイランド・トリロジー』について、11月21日(現地時間)、ニューヨークのポッシブル・フィルムズでインタビューに応じた。
まず、刑務所から出所したばかりの男ジョシュ(ロバート・ジョン・バーク)が、車の整備工場で働き始め、工場の経営者の娘オードリー(エイドリアン・シェリー)と出会い恋に落ちる物語『アンビリーバブル・トゥルース』。同作の主演ロバートと撮影監督のマイケル・スピラーとは大学時代からの仲間だったというハートリー監督。
「僕らは、フィルムの装填(そうてん)、録音、撮影、編集を学んでいたんだ。卒業後、僕は3作の短編を手掛け、友人たちも映画界やテレビ界に進出し始めた。特にCMの仕事をする友人からは、多くの新たな手法を学んだよ。だから、わずかの製作費だったけれど、長編を作る準備はできていたんだ。今作がそんな製作費で制作できたのは、ロールアウト、あるいはショートエンドと呼ばれるテレビのCMなどで残されたフィルムや使い切れなかったフィルムを、僕らが安値で買えたからなんだ」と驚きの事実を明かした。
続いて、妊娠により高校を中退したマリア(エイドリアン)が、家を追い出され、行き場をなくす中、電化製品の修理工であるマシュー(マーティン・ドノヴァン)と出会い恋に落ちる物語『トラスト・ミー』。同作では、エイドリアンを主演に据えているが、彼女はどのように発掘されたのだろうか。
「バックステージというキャスティングの広告で募集し、彼女はその広告を見て、プロフィール写真を送ってくれたんだ。1,000枚くらいの写真から20枚ぐらいに絞ったよ。エイドリアンは、最初のオーディションから特別だったけど、当時の彼女はボストン大学を中退した22歳で、ろくな演技経験もなかったから迷ったね。それでも、自分が思い描いていたルックスだったこともあって、彼女に決めたんだ」前作の成功から、イギリスの制作会社Zenith Entertainmentとタッグを組んだ同作だったが「予算は約60万ドル(約6,600万円 1ドル110円計算)。当時としても低予算ではあったけど、僕らにとってはかなりの予算で、より多くの照明や機材を使うことができたし、Zenith Entertainmentを通して、プロの撮影方法を学んだよ」と当時を振り返った。
そして、元有名野球選手で、国防省爆破事件の犯人だった父親が刑務所を脱走したことで、父親の行方を捜すことになった間抜けな犯罪者の兄ビル(ロバート)と、生真面目な学生の弟デニス(ビル・セイジ)の旅路を、道中で出会う女性ケイトとエリナとの恋と共に描く『シンプルメン』。
ロバートの魅力については「彼は、ヘンリー・フォンダやジェームズ・スチュワートなど、アメリカのクラシックな俳優をほうふつさせるんだ。僕自身も男としてあの役には憧れたよ。ロバートは、そんなリアルな男を感じさせる素質があるんだ。今作は男らしさを描いているものの、その男らしさをもてあそぶような演出もしていて、ロバートが演じる兄ビルは、タフガイの要素と繊細な部分を兼ね備えている。実際のロバートは、とても面白い人物で、例えば『アンビリーバブル・トゥルース』では、そういった面白い要素は見られなかったから、映画内のキャラクターとはギャップがあるかもね」と旧友ならでは発言も。『シンプルメン』のカンヌ国際映画祭コンペ部門への出品については「カンヌに行く前に、多くの海外の配給会社の配給が決まっていたんだ。特にカンヌでは賞を受賞したわけではないけれど、コンペへの出品が宣伝の役に立ったのは事実だね」と語った。
最後に、エイドリアン・シェリーさんの死について「このBoxセットが、彼女の伝説を伝えてくれると思う。現在、僕は彼女の夫が立ち上げたエイドリアン・シェリー財団で共に仕事をしていて、あの(殺害された)悲劇から何か良いことを生み出そうとしているんだ。この財団では女性のフィルムメイカーのサポートをしているよ」と感慨深げに語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
『ロング・アイランド・トリロジー』BOXセットは10,663 円(税込)で販売中、12月14日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか 順次公開予定