堺雅人、アドレナリン全開で燃え尽きる
『天元突破グレンラガン』シリーズやアニメ「キルラキル」の今石洋之監督と脚本の中島かずきが組んだ劇場アニメーション『プロメア』(公開中)で、声優として共演した松山ケンイチと早乙女太一を「狂気を感じた」と言わしめた堺雅人。テレビドラマ「リーガル・ハイ」を筆頭とするハイテンションな演技にも定評がある堺が、アドレナリン全開だったという『プロメア』でのハードな声優体験を振り返った。
本作の舞台は、炎をコントロールできる突然変異で誕生した人種の“バーニッシュ”の出現で、全世界の半分が焼失した大惨事「世界大炎上」から30年後。炎を自在に操るミュータント集団の過激派マッドバーニッシュのリーダー、リオ(声:早乙女)と、対バーニッシュの高機動救命消防隊バーニングレスキューの熱血新人隊員ガロ(声:松山)のバトルを活写する。
堺が演じたのは、主人公ガロ(松山)の上司で、自治共和国プロメポリスの司政官で、フォーサイト財団理事長のクレイ。二面性のある複雑なキャラクターだが、堺は中島かずきが座付き作家を務める「劇団☆新感線」の舞台「蛮幽鬼」(2009)でも裏表のある、サジと名乗る殺し屋を演じた。『プロメア』の声優オファーにも、「(中島)かずきさんが僕にと仰るなら一も二もなく。光栄です」と快諾。「『蛮幽鬼』では、僕が思っている以上にお客さんがサジというキャラクターを愛してくださった。『プロメア』もそんな風になれば嬉しいですね」と期待を込める。
クレイというキャラクターは、堺いわく「生命力あふれる人物。誰にもわかってもらえない絶望感みたいなものを抱えている」。二面性を演じ分けることは、それほど問題にならなかったようだが、クレイのがっしりとした体格は自身の体格とかなり差を感じ、悩んだという。「あの体の大きさは、僕の声ではまだまだ追いつかないところもたくさんありました」と自省するも、「いい役だった」と手ごたえも感じている様子。
そのクレイへのアプローチに、とあるキャラクターがよりどころになった。炎を操る人種バーニッシュを長年研究してきたキーパーソンのデウス・プロメス博士で、「劇団☆新感線」の看板役者である古田新太が声を担当している。堺いわく「博士との関係がクレイの対人関係や対世界観にものすごく影響を及ぼしている」とのことだが2人の関係は謎に包まれており、「その余白が、中島かずき作品に人々が夢中になるところかもしれないですね」と笑う。
一方、クレイがかつて命を救い、父子のような絆で結ばれているガロ(松山)と、リオ(早乙女)との“アドレナリン全開”バトルが凄まじい。アドレナリン全開と言えば、「倍返しだ!」の決めゼリフでおなじみの「半沢直樹」や型破りな敏腕弁護士で人気を博した「リーガル・ハイ」などのキャラクターが思い浮かぶと訊くと、堺自身は「半沢はアドレナリン全開という感じでもなかったかな。大声を出すと言えば、クレイの方だった」と振り返る。さらに、そのテンションは「一人だけで作れるものではなかった」とも。だからこそ、とりわけクライマックスのアフレコを松山、早乙女の3人で収録できたのには大きな意味があった。
その初日、堺はクレイの声量をクライマックスシーンから逆算して現場入り。ところが、「5段階あるとしたら初めから5の芝居を要求され、この後、どう戦えばいいんだと、絶望に似た感覚が……」と苦笑い。その瞬間、最もアドレナリンが出たという。意外にも松山との共演は本作が初となるが、「松山くんという座長の性格、ガロに似たあの屈託のなさで、分け隔てなく仲間にしてもらった」と賛辞を贈っていた。(取材・文:岡崎優子)