水カンのコムアイがインドネシア巨匠のサイレント映画と1日限定ライブ
音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のコムアイがボーカルを務める映画・映像イベント「『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響によるコンサート」が7月2日、東京・有楽町朝日ホールで行われる。インドネシア映画にコムアイとまさに異色の組み合わせだが、本公演の音楽・音響を手がけるサウンドデザイナーの森永泰弘が「今まで仕事をしてきて初めて“この人じゃなきゃ作品が出来ない”と主張させていただいた」とラブコールを送ったことを明かした。
本公演は、創立5年目を迎えた国際交流基金アジアセンターが、日本と東南アジアの文化交流事業を幅広く紹介する目的で行われている祭典「響きあうアジア2019」の一環として行われるもの。
サイレント映画『サタンジャワ』(2016)は、第19回東京国際映画祭コンペティション部門で国際審査員を務めたこともあるインドネシアの巨匠ガリン・ヌグロホ監督によるモノクロ作品で、1920年代のオランダ植民地時代のインドネシアを舞台にした悲恋物語。従来の映画館などとは異なる形式で上映されるエクスパンデッド・シネマ(拡張映画)のコンセプトのもと、地元アーティストとコラボレーションした生演奏付きでオランダやドイツでも上演されてきた。
今回の日本版は、ヌグロホ監督の娘カミラ・アンディニ監督『見えるもの、見えざるもの』(2017)の第18回東京フィルメックス最優秀作品賞受賞作で音楽を担当するなど、東南アジア作品に数多く携わってきた森永が、本作でも音楽と音響デザインを担当。森永は、世界各地の音楽や儀礼、環境音を収録するフィールドレコーディングをライフワークとしており、インドネシアもたびたび訪問して現地の歴史や文化にも明るいことから、大役を任された。
もっとも森永は「インドネシアには言語がいくつもあって、地域の神様にお願いする歌を聞いても自分には内容はわからない。地域の文化に近づいたと思ったら、『いや、やっぱりお前はわかってない』と突き放され……の繰り返しです」と苦笑いする。
公演では森永がインドネシアでフィールドレコーディングした音と、インドネシアから来日するアーティストによる伝統楽器の演奏、さらに国際的アーティストのグナワン・マルヤントによる詩やマントラも舞台上で繰り広げられるという。そこに加わるのがコムアイだ。海外滞在時間の長い森永は「水曜日のカンパネラ」を知らなかったそうだが「この企画には女性ボーカリストが必要」と思い、You Tubeを視聴しまくって発見したという。
コムアイを選んだ理由について森永は「身体そのものが、言葉や声になる人を探していました。『水曜日のカンパネラ』でのコムアイさんの言葉の使い方を見て、彼女ならそれが表現できると思いましたし、この公演に出演することでもっと彼女の魅力が出るのではないかと思いお願いしました」という。
「水曜日のカンパネラ」は今年4月3日に屋久島でフィールドレコーディングをしながら制作をした新作EP「YAKUSHIMA TREASURE」をリリースしたばかり。同様にコムアイは本公演のために、今年4月にインドネシアのスラウェシ島に入り、地元の人たちと触れ合い、森永のフィールドレコーディングにも参加して現地の空気と文化を吸収してきたという。
森永は「今回はあくまでヌグロホ監督と自分とコムアイさんの3人が平等にいるコラボレーションなので、僕がどうしたいのではなく、彼女自身が作品とインドネシアの文化に実際に触れてどう思ったのか。彼女の声を発見したいと思っています。そうして音場を豊かにすることで、観客の皆さんに作品の世界に没入してもらえるようになればと思っています。自分にとっても長年続けてきた異文化交流の、ネクストステージに向かう公演になるのでは」と思いを語る。
本公演に合わせて会場内の音響設備もパワーアップさせるという。ただし、公演は1日限定。贅沢、かつ貴重な立体音響コンサートとなりそうだ。(取材・文:中山治美)
・響きあうアジア2019公式サイト asia2019.jfac.jp
・『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート公式サイト jfac.jp