オダギリジョー、麻生久美子は「お守り」みたいな存在
9月24日に第2話が放送される連続ドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(全3回、NHK)で脚本・演出を手掛ける俳優のオダギリジョー。ドラマ「時効警察」でのコンビでも知られる麻生久美子が参加していることは、今作でも特別な意味合いを持っているのだという。
本作は、鑑識課警察犬係に所属する警察官の青葉一平(池松壮亮)と、彼の相棒である警察犬オリバーが次々と発生する不可解な事件に挑んでいく物語。先輩である漆原(麻生)をはじめ、鑑識課警察犬係には課長(國村隼)、一平の同僚で同じハンドラーのユキナ(本田翼)、後輩の三浦(岡山天音)といった個性的な面々が揃う。
脚本の第一印象は「ぶっ飛んでるなぁ…」
「巣ごもりと言われる生活を送りつつ、この時代に描くべき作品はなにか? と繰り返し自問しながら書いた」というオダギリにとって、今作では「バカバカしく笑えるものをやりたい」という思いがあったという。「日本だけじゃなくて世界中が出口の見えない苦しみの中、どうにか進んでいる状況で、心のゆとりやひと時の楽しみを与えてくれるものが必要じゃないかと思うようになりました。高尚なテーマや社会的なメッセージは二の次で、現実を一瞬でも忘れられる瞬間がほしいと思ったんですね。それが今、自分がやるべきことだと思えたんです」
オダギリと麻生といえば、コメディードラマ「時効警察」での黄金コンビを思い出す人も多いはず。今回のドラマの企画が持ち上がったのも、二人がちょうど「時効警察はじめました」の撮影していたとき。麻生は「オダギリさんから『こういう話を撮りたいんだ』ということは聞いていたので『ちょっとだけでいいから、私も出たい!』なんて言っていたら、思っていたよりしっかりした役で」と笑う。脚本の第一印象は「ぶっ飛んでるなぁ……と思いました(笑)。台本にト書きに私の名前が書かれていて、こんなプレッシャーのかけ方があるんだと」
オダギリいわく「麻生さんの面白さを引き出すために、イメージを膨らませながら描きました。その思いが強すぎたのか、ト書きにまで『麻生さんはこの長い説明セリフをちゃんと言えるのだろうか……心配だがしっかりやってほしい……』と、僕の心の声まで書き加えてしまいました(苦笑)。NHKのプロデューサーさんも『こんな台本は読んだことないから、このままでいきましょう』となって」。思わず麻生も「え、そうなの? プレッシャーでしたよー。『この長ゼリフを言えるのだろうか……』とか。製本するときに消すでしょ、普通(笑)」
「オリバーな犬」でオダギリがバディを組むのは、先ごろ公開された映画『アジアの天使』で兄弟役を演じた池松壮亮。麻生も「似た空気を持っている二人だなと思います。池松さんも正直な人で飾らない。そこが魅力」と明かす。オダギリも「どちらもあまり器用な人じゃないんです」と同意しつつ、今作においてはバディを作り上げるうえで重要だったのが麻生の存在だったという。
「池松くんと僕のやりとりを見ている麻生さんの存在がすごく重要なんです。麻生さん演じる漆原がこの状況をどう見ているのかという表情から、視聴者は改めて『オリバーは犬なんだ』と思い出すわけですし、漆原にも共感するんですよね。視聴者の心を動かすのは実は麻生さんだったりするんですよ。そのことに気づいたのは撮影の現場に入ってからなのですが、何より大事な役だと認識しました」
オダギリからの絶大の信頼感に「やだ、荷が重い!」と笑う麻生だが、オダギリ組の現場では「いい意味でプレッシャーをかけてもらったので、私は最初のうちは緊張して入ったのですが、楽しくやらせてもらえました」と振り返る。一方で、「時効警察」の撮影との違いで新鮮な感触もあったようだ。
麻生久美子が見た演出・オダギリジョーの姿
麻生はこう語る。「『時効警察』のときは役者同士という関係なので、空いている時間があれば、ずっと話していられる。でも、監督と役者という立場になると普段通りのコミュニケーションはとれなくて、いつもよりは大人しかったかも(笑)。監督としてのオダギリさんは、違う人と言ったら大げさですけど、関わり方はまったく違う。すごく優しいんです。監督になると本当に気遣いがすごくてほかのみなさんにも気を使っているので、疲れているんじゃないかなと思うくらいでした」
ホスピタリティー抜群だったというオダギリ組の撮影現場。オダギリは「やっぱり自分の書いた脚本を演じていただくという気持ちがあるんです。自分が役者として撮影現場に入るとき、監督の態度や姿勢に、テンションが下がるときがあって、そういうことは避けたいじゃないですか。この現場に関わってよかったなあと思ってもらいたいので、できるだけ低姿勢で謙虚に(笑)。役者ファーストの現場を目指しました」と思いを明かす。
以前に「俳優としては、基本的に役の大きさやギャランティーでは仕事を選ばない主義なんです。おもしろい脚本であればエキストラでも出たいと思います」と語っていたオダギリ。そのイズムに共鳴したのか、今作には主人公を演じる池松をはじめとする鑑識課警察犬係のメンバーに加えて、佐藤浩市、永瀬正敏、永山瑛太、染谷将太、仲野太賀、玉城ティナ、佐久間由衣、橋爪功、柄本明、松重豊といった若手からベテランまで、豪華な顔ぶれが揃った。麻生も「やっぱりお祭り感がありました。すごくない? と思って。やっぱり好かれているというか人徳があるというか。でないと、これだけ集まらないですからね」と驚きを隠せない。
それにはオダギリも思いがある。「自分の大切な作品なので信頼できる人しか呼びたくない。設定が設定だけに、ミリ単位で芝居ができる人じゃないと大失敗しちゃいますからね。そのうえ、オダギリが変なことに挑戦しようとしているということに賛同してくれているので、みんな楽しそうに演じてくれていたし、すごく幸せな現場でした。そのなかで、こういう言い方は変かもしれないですけど、麻生さんは最初に持っておきたい『お守り』みたいな存在だったんです」
テレビでやれる面白さが詰まった「オリバーな犬」
そう語るオダギリだが、本作で演じているのは、なんと警察犬のオリバー。一平だけにお腹をボリボリ掻いている着ぐるみのおっさんに見えるという不思議な犬。それでもオレオレ詐欺の受け子を追跡する任務では謎の拳銃と正体不明の耳を発見し、偶然が重なって運良く事件は解決に導く。果たして運なのか、秘めた実力なのか……。麻生も「犬のときのオダギリさんと本物の警察犬のオリバーのときとで視線の動かし方は迷いましたね」と語るように、どのような演技を披露しているのか、見どころとなる。
「ネタ帳があって、気になった言葉や状況とか、そういうのは少しずつ貯めている」と明かすオダギリによる細かいネタも盛りだくさん。なかでも「押忍」だけで会話を成立させしまうお爺さんは麻生もお気に入り。あるバラエティー番組に「空手家で『ミスター押忍』と呼ばれるおじさんがいて、その人はすべての状況を『押忍』で表すんです。YESもNOも『押忍』。それは我々表現者によって行き着くべき『極み』ともいえる段階です。憧れも込めてキャラクターとして使わせていただきました」
また、映画監督の今泉力哉、くっきー!(野性爆弾)、細野晴臣、鈴木慶一などが思いがけないキャラクターとして出演。「時効警察はじめました」にも参加していた今泉監督は「この企画についてどこかで耳にしたらしくて『何でもいいから入りたい』とプロデューサーに連絡があったそうなんです。とはいえ、助監督にするわけにもいかないし(苦笑)、『じゃあ、俳優としてエキストラ的に出ますか?』となったんですね。ただ、本当に芝居も面白かったですよ。昔からよく言われるんですが、『良い監督は芝居も上手い』ということを思い出しました」
2019年に初の長編映画監督作『ある船頭の話』を発表したオダギリ。同年のベネチア国際映画祭に唯一の日本映画として選出された経歴を持つ。同じ監督という立場でありながら、オダギリは「カット割りや画面のサイズ、編集も映画とはまったく違う意識で挑みました。日常の中、ながら見することもあるテレビの環境と、お金を払って大きなスクリーンに集中する映画とは、やはり見せ方が変わって当然だと思っています。テレビでやれるおもしろみをたくさんやりたかったんです」という。「連ドラの監督を一人でやるのってすごいことですよね。役者さんでいます?(笑)」と麻生も驚く野心的な作品に仕上がっている「オリバーな犬」。二人の新たな関係性やオダギリの脳内世界を垣間見える世界観、そして豪華なキャストが集結した群像劇など、挑戦的な試みを目撃しよう。(編集部・大内啓輔)
ドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」はNHK総合にて9月24日に第2話が放送、第3話は10月1日よる10時~10時45分放送(全3回)