期待の星を先取り！「きのう何食べた？」の中江和仁監督らを輩出したndjc公開

　日本映画の振興の一環として行われている特定非営利活動法人映像産業振興機構（VIPO）の文化庁委託事業「ndjc：若手映画作家育成プロジェクト2021」の合評上映会がこのほど都内で行われた。

　同プロジェクトは若手映画作家を対象にプロによる指導と製作実地研修を行い、次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指すもので、2006年にスタート。ワークショップ参加者の中から選出された者は最終課題である30分以内の短編映画の撮影を行い、完成作は期間限定ながら劇場で一般公開される。これまでは35mmフィルムで制作していたが、今年から時代を鑑みデジタルへと切り替わったのが特徴だ。

　これまで77人が最終課題に挑んでおり、映画『劇場版　きのう何食べた？』（2021）が大ヒットした中江和仁監督や、映画『あのこは貴族』（2020）が本年度のキネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・テンで第6位に選ばれた岨手由貴子監督らを輩出。さらに吉野耕平監督のように、本プロジェクトで組んだ制作会社との出会いが、長編デビュー作『水曜日が消えた』（2020）につながった例もある。

　今回、短編映画制作に選抜されたのは、東京藝術大学大学院映像研究科出身の竹中貞人監督、短編映画『愛をたむけるよ』（2019）がなら国際映画祭や TAMA NEW WAVE などに選出された団塚唯我監督、『stay』（2019）がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の短編部門グランプリに輝いた藤田直哉監督、映画『19歳』（2018）がぴあフィルムフェスティバル2018で審査員特別賞を受賞した道本咲希監督の4人。

　今年は4監督の作家性が際立っており、テーマもバラエティーに富んでいる。竹中監督の『少年と戦車』はイジメ問題、団塚監督の『遠くへいきたいわ』は家族の喪失、藤田監督『LONG-TERM COFFEE BREAK』はキャリアウーマンの恋、道本監督の『なっちゃんの家族』は少女の視点から描く家庭の崩壊で、いずれも長編映画としても成立しそうな見応えのある作品だ。

　合評上映会後にはスーパーバイザーである東映衛星放送株式会社の香月純一代表取締役社長や撮影監督・藤澤順一らプロジェクト検討委員らによる講評会が行われ、そこでも評判は上々。何より4作品を担当した東映東京撮影所ら制作会社のプロデューサー陣が「これをきっかけに、また一緒に仕事ができれば」と口にし、本プロジェクトの目的の一つである若手監督とプロのマッチングの場としての基盤が確立しつつある。

　参加監督にとっても得難い体験の場だったようで、道本監督は「学生の頃は感覚で映画作っていたが、今回は隅々まで自分なりに計算して作ってみた。それが形になったのがうれしかった」と振り返った。

　また竹中監督は、深川栄洋監督の脚本指導が刺激になったようで「自主映画を作ってきた中で（観客への）サービス精神のことばかり考え、自分の根本と向き合ってこなかった。そこを深川監督に指摘され、あまりにも言われ続けたことで僕の中に深川監督が出来上がってしまった。撮影に入って何か困ったことがあると心の中の深川監督と相談していた」と感謝の言葉を述べていた。

　「ndjc：若手映画作家育成プロジェクト2021」は今後、京都、大阪、名古屋で合評上映会を行ったあと、東京・大阪・名古屋で期間限定で劇場公開される。またこれまで制作された69本はNetfixで配信中。その中にはブレイクする前の浜辺美波が出演した『世田谷区, 39丁目』（山下征志監督、2014）、太賀（現・仲野太賀）＆岸井ゆきの共演『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』（佐藤快磨監督、2016）などもあり、お宝作品発掘の楽しさも味わえそうだ。（取材・文：中山治美）

「ndjc：若手映画作家育成プロジェクト2021」は東京・角川シネマ有楽町で2月25日～3月3日、大阪のシネ・リーブル梅田で3月4日～10日、名古屋・ミッドランドスクエア シネマで3月18日～24日に期間限定公開