【ネタバレあり】『トップガン マーヴェリック』愛あふれる胸アツオマージュの数々
1986年の『トップガン』から36年後。続編の『トップガン マーヴェリック』が待望の公開を迎え、日本でも大ヒットのスタートとなった。いったい何が観る人のテンションを高めているのか。前作とのつながりを中心に胸熱ポイントを見ていく。(斉藤博昭)(以下、映画のネタバレを含みます)
『トップガン』といえば、この曲とセットで記憶している人も多い。ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」だ。『トップガン マーヴェリック』ではいきなり冒頭で同曲が流れ、空母での戦闘機発着をシルエットのようにとらえた映像など、前作とほぼ同じ演出に度肝を抜かれる。観ているわれわれは一気に『トップガン』の世界へ連れ込まれる感覚を味わうのだ。
こうして36年のブランクは消失し、前作からの地続きの物語に没入してしまう。音楽のつながりでいえば、『トップガン』でマーヴェリックの親友グースが弾き語りをしたジェリー・リー・ルイスの名曲「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」を、今回はグースの息子ルースターがバーでピアノを弾きながら熱唱する。このバーのシーンでは、ジュークボックスからデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」など1980年代ポップスが流れるのも、前作の“時代”へのオマージュだろう。
ルースターを演じたマイルズ・テラーは口ひげを生やした姿が、父グースを演じたアンソニー・エドワーズの容貌と重ねずにはいられない。ルースターは、グースが命を落とした時、同じ機に乗っていたマーヴェリックに複雑な思いを抱えていた。そこだけで今回、教官となったマーヴェリックに反発するかと思いきや、マーヴェリックが贖罪の思いでルースターの人生を左右していたことも発覚。両者の屈折した感情が浮き彫りになっていくが、『マーヴェリック』全編で貫かれるのは、マーヴェリックからグースへの変わらぬ思いだ。窮地に立たされた彼は、亡きグースに向かって苦悩を打ち明けたりする。失った親友との永遠の絆。これは前作の感動をこの続編が深めるうえで最重要ポイントだ。
さらに『トップガン』からの延長で胸が熱くなるのは、アイスマン役のヴァル・キルマーの登場。今回、マーヴェリックが若きパイロットたちの教官になることを引き受けたのも、アイスマンからの依頼が大きな決め手となる。マーヴェリックとアイスマンの再会シーンは、咽頭がんと闘ったヴァル自身とも重なって、胸を締めつけられない人はいないだろう。トム・クルーズが「ヴァルが出なければ続編は作らない」と語っていたのも納得だ。
一見、唐突に現れたようなマーヴェリックの恋の相手、ペニー。これも『トップガン』ですでに語られていた。映画の前半、マーヴェリックとグースが上官の部屋で叱責を受けるシーンで、マーヴェリックが司令官の娘に夢中だと私生活もなじられるが、グースがその娘の名前を「ペニー・ベンジャミン」と口に出す。名前だけで登場したキャラが、今回ジェニファー・コネリーによって体現された。そんな細かすぎるつながりにも作り手の愛を感じさせる。
そして『トップガン』といえば、“トムキャット”と呼ばれるF-14戦闘機によるリアルな飛行アクションが魅了したが、今回はF/A-18にマーヴェリックのほかパイロットたちが乗り込む。F-14は米軍で退役しており(現在もイランが保有)、これは当然の成り行きだが、なんとF-14がクライマックスで登場。マーヴェリックらを救う役割も果たす。あの懐かしい外見だけでなくコックピットまで再現され、『トップガン』のファンには最も胸熱なシーンになったのではないか。
その他にも、『トップガン』で人気を集めた、マーヴェリックの愛車であるカワサキのバイク「Ninja」は旧型のGPZ900Rと、Ninja H2 が登場。アビエーターサングラスを付けたマーヴェリックが戦闘機と並行してバイクを走らせるシーンがまたしても出てくる。『マーヴェリック』でのビーチフットボールのシーンは、『トップガン』でのビーチバレーにすんなりとリンク。パイロットたちが楽しむビリヤードは、『トップガン』と同時期に公開され、トムをトップスターに押し上げた『ハスラー2』への目配せと捉えることも可能だ。
愛にあふれたオマージュとしては、1作目を手掛けた故トニー・スコット監督が好んだオレンジの太陽の光を、今回のジョセフ・コシンスキー監督が要所で強調した点も観逃せない。「トニー・スコットに捧げる」というクレジットに涙腺が刺激される人も多いに違いない。
このように『トップガン』の記憶は、36年を経て公開された『トップガン マーヴェリック』に数多く刻印され、観客それぞれの思い出とともに、さらにいくつもの発見があるはず。もちろん、前作を観ていない人、前作を忘れている人にとっても、素直に興奮し、感動できる王道エンターテインメント作品でもある。