『キングダム』狂気の万極役に山田裕貴を起用した理由
原泰久の漫画を山崎賢人主演で実写映画化する『キングダム』シリーズの第3弾『キングダム 運命の炎』(公開中)で新キャラクターの万極(まんごく)を演じる山田裕貴(※山崎賢人の「さき」は「たつさき」が正式表記)。長い白髪&鋭い眼光が覗くビジュアルが公開されるとその再現度の高さが大きな反響を呼んだが、本キャラクターに山田を起用した理由を、プロデューサーの松橋真三が語った。
紀元前、中国春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍になる夢を抱く戦災孤児の少年・信(山崎)と、中華統一を目指す秦国の若き王・エイ政(吉沢亮※(エイ政のエイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくりが正式表記)を壮大なスケールで描く本シリーズ。第3弾では、秦国に侵攻する趙国とそれを迎え撃つ秦国が因縁の地で激突する「馬陽(ばよう)の戦い」と、かつてエイ政を救った趙国の恩人・紫夏(しか/杏)のエピソードが描かれる。山田演じる万極は、「馬陽の戦い」で信や大将軍・王騎(大沢たかお)に立ちはだかる趙の最強の武将たちの一人。かつて長平の戦いで秦国に敗れ、投降した40万人の兵を生き埋めにされたことにより、秦国に凄まじい恨みを持つ。
2021年公開の実写映画『東京リベンジャーズ』のドラケン役が大きな反響を呼び、2022年から23年にかけて『夜、鳥たちが啼く』『BLUE GIANT』(声の出演)「ペンディングトレイン -8時23分、明日 君と」などドラマや映画の主演が相次ぐ山田。今や飛ぶ鳥落とす勢いで、現在『東京リベンジャーズ』第2作の後編『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』が公開中だ。
『キングダム 運命の炎』で演じる万極は、「秦国の民を根絶やしにする」揺るぎない目的を持ち、残忍な側面が強調されたキャラクターだ。山田自身、出演発表時のコメントで「やった~キングダムだ~やりたかった~。さぁどんな役だ? と楽しみにしていました。あの呪いの男ですか。怨み、怨念、その全てを背負ったような男、万極。選んでくださった方に対して僕ですか? と思うと同時に、凄いなと思いました」とオファー時の驚きを語っていたが、松橋Pはキャスティングの経緯をこう語る。
「万極はこれから(映画の)シリーズが続いたとしたら、いずれ信と真っ向から闘う相手になります。山田さんは以前から映画『オオカミ少女と黒王子』(2016)、近年だと『ブラックナイトパレード』(2022)など多くの作品でご一緒していて、すごく礼儀正しい方ですし、役に真摯に取り組まれる、真面目な方なんです。一方でおちゃらけた一面もあって、役者としてふり幅を持っていらっしゃる面白い方と思っていたので、福田雄一監督のドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』で、志村けんさんを演じていただいたことがあります」
そう山田の俳優としてのふり幅を強調しながら、万極役をオファーした際の記憶を思い返す松橋P。「以前から山田さんが『いつかキングダムに出たいです』とお話されていて、おそらく山田さん的には王賁(おうほん)とか蒙恬(もうてん)を想像されていたかと思うんですが、現状ではそこまで映画で描くことは見えていないこともあり、“万極はどう?”と提案をしました。内に狂気をはらんでいるキャラクターですが、わたしは山田さんの陰の部分も知っているので、面白くやっていただけるんじゃないかと思いました。“なるほど……!”と驚かれていたと思います」
なおかつ趙の3武将は、信や王騎の“ピンチ感”を感じさせるようなキャスティングにする必要があったという。中華全土で「頭脳の馮忌」の異名をとるもう一人の副将・馮忌(ふうき)は片岡愛之助、そして総大将の趙荘(ちょうそう)は山本耕史に決定した。
「今回は王騎を中心とした秦軍になるのでよほどの強敵が現われないと、ピンチにならないと思っていました。映画を観ている人に王騎が勝つだろうと思われるのは避けたかったので、王騎たちが正攻法で彼らと向き合った時に先が読めなくなるような敵将キャストを揃えたいなと考えていました。山田裕貴さん、山本耕史さん、片岡愛之助さんというお三方の顔ぶれが揃ったら凄そうだし、どうなってしまうのだろう? 面白そうだなと思いましたね(笑)」
実際に山田が演じる万極を目にした松橋Pは、迷いなく「初めから役にハマっていました」と評する。「万極の武器の持ち方だったり、どういう動きや戦い方にするのかなど相当研究されていました。髪型も銀の長髪の間から目がギラギラと覗くような感じになるまで試行錯誤を重ねていました。万極は原作のビジュアルに寄せながらも“かっこいい男”にしたいというのがありましたが、結果ベストな形にできたかなと思っています」
大河ドラマ「どうする家康」では徳川家康の男気溢れる家臣・本多忠勝という真逆の屈強なキャラクターで人気を博す山田。両作を見比べると、一層彼のふり幅に驚かされること必至だ。(編集部・石井百合子)