4年ぶり!山形国際ドキュメンタリー映画祭リアル開催までの道のり
アジア最大級のドキュメンタリー映画の祭典・山形国際ドキュメンタリー映画祭2023(以下、YIDFF)が10月5日~12日、山形市中央公民館大ホールほかで開催される。隔年で行われ、コロナ禍の影響で前回はオンラインだったため、リアル開催は4年ぶり。今年3月に他界した音楽家・坂本龍一さんの最後のピアノ・ソロ・コンサートを、実息の空音央監督が記録した『Ryuichi Sakamoto | Opus』がオープニングを飾ることもあり、関心が高まっている。
YIDFFは山形市政施行百周年記念事業として1989年にスタートし、今年で18回目。例年国内外から約2万人が集うが、今年はすでに市内の宿泊施設はほぼ満室で、映画祭事務局では近隣の町や、高速バスで約1時間の宮城県仙台市内のホテルを案内している状態だという。映画祭事務局長の畑あゆみさんは「オープニングを筆頭にかつてない問い合わせをいただいており、皆さんの(リアル開催への)期待感を実感しています」と驚きを隠せない。
ここまでの道のりは平坦ではなかった。YIDFF名物、観客とゲストが交流する夜の社交場・香味庵クラブの場所を提供していた創業135年の漬物店「丸八やたら漬」がコロナ禍の影響を受けて2020年5月に廃業し、新たな場所探しに奔走した。YIDFFのみならず山形の映画文化発展に尽力した高橋卓也理事が2022年10月15日に急逝し、精神的支柱を失った。財政面もこれまで得られていた助成金が減少し、コンパクトな開催を目指したという。
一方で、前回のオンライン開催に踏み切ったことで今までにない利点もあったという。視聴者数は2万1,790人に達し、「“遠方でこれまで行けなかったが、ようやく参加することが出来た”という声を多数いただきました。一定の成果を出せたのではないかと思っています」(畑さん)という。またその時デジタル化した上映作品などを生かして、動画配信サイト「U-NEXT」での過去上映作の配信も今秋から始まり、YIDFFの新たな可能性に挑んでいる。
こうしたYIDFFの実績と信頼に寄せられる期待は大きく、メインのインターナショナル・コンペティションには112の国と地域から1,132本の応募があったという。その中から選ばれた15作品にはウクライナ紛争、コロナ禍、移民問題など現代社会を映し出した力作がそろった。その中にはオンライン・ゲームに集う匿名ユーザーのコミュニティーに映画クルーが潜入取材した異色作『ニッツ・アイランド』もあり、ドキュメンタリーの概念を大きく揺るがしてくれそうだ。
ほか、2020年5月に山形駅西口に開館したやまぎん県民ホールイベント広場での東北をテーマにした野外上映イベント、申込制で高校生・大学生を無料招待する鑑賞ワークショップ「未来への映画便」、批評ワークショップなど多彩な関連イベントが用意されている。そして懸念の夜の社交場も、山形七日町ワシントンホテルが日本料理店「三十三間堂」を「新・香味庵クラブ」として提供することを快諾。 入場料も今まで通り500円(ドリンク1杯、おつまみ付き)と据え置きだ。
畑さんは「上映本数は長・短編合わせて約130本に及び、規模的には今までと見劣りしないプログラムになったと思います」と力を込める。山形市は、老舗百貨店の大沼が2020年1月に経営破綻し、他の地方都市同様に市街の空洞化が取り沙汰されているが、YIDFFが地域活性の一助となることも期待したい。(取材・文:中山治美)
山形国際ドキュメンタリー映画祭は10月5日(木)~12日(木)、山形市中央公民館ほかにて開催。