ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス (2022):映画短評
ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス (2022)ライター5人の平均評価: 4.2
MCU史上最恐のホラー奇談
“特殊能力を持つ少女を守る”という、さんざん擦られた話ではあるが、これがサム・ライミ監督の手に掛かると、MCU史上最恐ともいえるホラー奇談に変貌! 「ワンダヴィジョン」流れで逆恨みにしか思えないスカーレット・ウィッチが『スペル』のババア並みに暴走したかと思えば、ストレンジも己と戦い始め、生ける屍となったりと、カンバーバッチを弄りまくり。それに伴い、完全に巻き込まれ事故なクリスティーンも絶叫クイーンと化していく。ほかにも、禁断の書が『死霊のはらわた』の「死者の書」にしか見えなくなるうえ、屋台で“あの人があの芸”を披露するなど、スクリーンいっぱいに飛び散るライミ汁に、★おまけ。
この監督なら、“何でもアリ”もウェルカム!
シリアス派の監督からライミにバトンが継がれたのだから、最初の『ドクター・スレンジ』とテイストが異なるのは必然。
冒頭から対クリーチャー戦が展開。戦闘のダイナミズムもさることながら、中盤以降のサイキックバトルもキャラの形相込みで凄まじく、ストレンジのゾンビ化やワンダのゴースト化など、特殊メイクによるバケモノ顔はライミ作品ならではの味で、“怖い”と“笑える"の境界線を行く。
前作に比べるとグロ度やユーモアが格段に上がった。カンバーバッチもオルセンも、これまで以上に生き生きと演じているのがイイ。マルチバース設定の強化でMCUは何でもアリになり、少々不安もあったが、ライミが撮るなら願ったり!
サム・ライミ監督のファンも必見!
ケヴィン・ファイギが「この映画がサム・ライミの映画だということを忘れちゃいけない」と言っていたのは本当だった。サム・ライミ監督が「私はマーベル映画を撮った」と言っていたのも本当だった。その2つのバランスにまったく危うさがなく、とても自然に見えるところがこの映画の驚異的なところなのではないか。
ライミ監督らしさは、あの要素やあの要素など満載なのだが、それだけではない。"彼がかつて描いたスパイダーマン"とは対極にあるだろう"ドクター・ストレンジ"というキャラを描いても、その物語には彼のスパイダーマンの精神が貫かれている。そこが、この監督の真骨頂。ライミ監督ファンも必見。
マルチユニバースが映画を面白く…するか否かの分岐点は?
マルチバースを題材にするのは難しい。記憶に新しいスパイダーマンのように感動と痛快さにシンプルにつながった例はともかく、今回は登場人物の一人が「別の世界(ユニバース)の自分が幸せならいいのでは?」などと語る。どうしたって他のバースの自分との関係、バースの境界が曖昧になる状況など「設定」に対し、脳細胞をフルに働かせ解析しながら観るので、やや混迷にも陥る。なので深く考えず観た方がベターか。
前半は抑え気味だったサム・ライミらしさが、中盤から一気! ドッキリ画面、強烈な死にざま、生と死の交錯など得意のホラー的演出が冴えわたる。監督も楽しそう。結果、過去のMCUと違うテイストが打ち出され、そこは大満足。
サム・ライミ、お見事!
6年ぶりの単独主演作にして、なんと言ってもサム・ライミがついにMCUに合流するというメモリアルな作品。結果として、フェーズ4に入って方向性がはっきりしなかったMCUの大きなマイルストーンになる一本となりました。映画ファン、原作ファン、ベネディクト・カンバーバッチファン全ての層にたっぷりとサービスショットを用意しつつ、独特のユーモアと、深いドラマを内包。それでいて126分の上映時間に納めたサム・ライミお見事の一言です。やはり、この人はコミック映画、ダークファンタジーを撮らせたら最高の人ですね。そして久しぶりに3D推しの映画でもあります。できるだけ大きなフォーマットでご堪能ください。