わたくしどもは。 (2023):映画短評
わたくしどもは。 (2023)ライター2人の平均評価: 3
タルコフスキー的な映像美に目を奪われる
佐渡島の金山跡地。そこで目を覚ました記憶のない男女が互いに惹かれあっていく。ミドリにアオにキイにアカにクロと色彩に由来する登場人物たちの名前、抽象的な様式美に重きを置いた独特の芝居とセリフ。この夢とも現実ともつかぬ世界が、やがてこの世とあの世の狭間であることが分かり、それに伴っていろいろと辻褄も合っていくのだが、しかしそれでも少なからず優等生的な「お芸術」っぽさが鼻につくことは否めないだろう。そういう意味で好き嫌いが大きく分かれる映画だとは思うが、しかしまるでタルコフスキーが日本で映画を撮ったかのような、『鏡』や『ノスタルジア』を彷彿とさせる映像美は一見の価値ありだ。
時空を超えて幻想に浸れるのは小松菜奈、松田龍平だからこそ
設定は一見、SFファンタジー。主人公たちが別時代にトリップ、あるいは生まれ変わっているようで、死後の世界も暗示されるが、システムや理由が論理的に説明されることがない。そうした作品のスタンスを素直に受け入れられる人には、ひとときの幻想に浸る贅沢な時間となるだろう。
小松菜奈、松田龍平の、どこか浮世離れした個性が作品にマッチ。特に龍平のうつろな目は完全に奇談の世界。田中泯の舞踏は時空を移動するスイッチとなり、日本映画でも珍しい佐渡島の風景も、異世界への入口としてふさわしい。
一方で過酷な労働や、子供たちのいじめ問題などシビアな現実が、物語にナイフのごとく切り込んできて背筋が凍る瞬間も何度か。