めくらやなぎと眠る女 (2022):映画短評
めくらやなぎと眠る女 (2022)ライター2人の平均評価: 5
本作の“シン”は日本語版!
ガチのハルキスト、ピエール・フォルデス監督による見事なアニメ化。村上春樹の小説の映画化はその監督の個性に独自変換されるものが多いが、本作は原作から直接生えてきた有機的な派生形といった趣。何より短編6編を再構築した「ハルキ・ユニバース」仕立てが原作理解の深さを証明する。
当初からフォルデス監督は日本語で作ることを望んでおり、深田晃司監督の演出によるリップシンクにもこだわり抜いた日本語版こそが真の完成形と呼べるかもしれない(翻訳の回路も絶妙!)。『リンダはチキンがたべたい!』『化け猫あんずちゃん』とロトスコープ/ライヴ・アニメーションの傑作を続けて放つMiyu Productionsは要注目。
海外監督がここまで風景、感覚まで日本をリアルに描くとは!
新宿の高層ビルから地方都市の空港やバス停、さらにアパートなど住居の内装まで、アニメでここまで違和感のない日本の風景、その再現力に驚嘆する。
村上春樹の世界を新たな物語にするにあたり、3.11直後を舞台に選んだのが大正解。主人公の一人の曖昧な感情、生と死についてのスタンス、未来への微かな光…。村上小説に漂う空気感と地続きになる。あの文体と映像がフィットするのは、ちょっと不思議な快感。計算ずくだったら天才!
日本製の多くのアニメと違って、人物の表情変化は乏しめだが、そこも震災後の日本人の心情を捉えたようで生々しい。無関係な人物が透明化されるのは、今の日本社会を映したようでちょっと怖かったりも。