ぼくが生きてる、ふたつの世界 (2024):映画短評
ぼくが生きてる、ふたつの世界 (2024)ライター2人の平均評価: 4
極上のウェルメイドにして、慎ましく革新的
なんて品のある語りだろう。原作者の五十嵐大をモデルにした「ぼく」――その小学生時代を演じる加藤庵次から、吉沢亮がバトンタッチするように自転車に乗って現れた時のスイッチングも鮮やか。どこまでも映画的に、実話をフィクションとして再構築する際の適切な節度が隅々まで行き届いた傑作。港岳彦の脚色も素晴らしく、爽やかな感動を生み出す。
現実音の有無で「ふたつの世界」を体感させるサウンドスケープの拘り。忍足亜希子、今井彰人、長井恵里ら『コーダ あいのうた』の成果をさらに前進させるキャストの充実。監督は呉美保。息子の視座から見た家族模様など彼女のオリジナル脚本によるデビュー作『酒井家のしあわせ』にも通じる。
伝えたいという思い
耳の聞こえない両親のもとで育ち、幼いころから”通訳”をしてきた青年の物語。吉沢亮が”聞こえる世界”と”聞こえない世界”の橋渡し役を務めながら、徐々に自分の生きる世界を拡げていきます。自伝エッセイを基にしているために、展開する物語はリアリティがあります。呉美保監督、長編作品としてはちょっと久しぶりな作品となりましたね。その間に母親になったことで今作の母と息子の描き方にも少なからず影響ががあったのでは?と思います。どうしても伝え方をついつい意識してしまいますが、それよりも何を伝えるか?の大切さを感じさせます。