アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン (2018):映画短評
アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン (2018)ライター6人の平均評価: 4.7
“神”が創られてゆく現場に立ち会う!
1972年、当時29才のAretha の「伝説のチャーチ・コンサート」だ。貴重な映像を目の当たりにすると色々な発見が。“クイーン・オヴ・ソウル”と謳われたそのパフォーマンスは実際にそうなのだが、明らかに彼女は合間合間で極度に緊張&動揺している。それは(なぜコンサート2日目に父親が現れたのかも含め)、ルーツであるこの教会録音企画をめぐるバックグラウンドを知ると臨場感が増す。
撮影を兼任していた監督シドニー・ポラックのカメラは“音楽の歴史的瞬間”に振り回されているのがリアル。倒錯的な言い方だが我々は、歌の、そして信仰の力によって、あたかも神が創られてゆく現場に立ち会っているような気になるだろう。
儀式のように本能から陶酔させる、奇跡の歌声
時代や国、そして宗教も超えて、この人の歌声は、人間の「聴覚」にすんなり入り込み、本能レベルで震わせると再認識する。人類の原初的儀式に立ち会っている感覚。これぞ、選ばれし才能か。
教会の聴衆、さらにバックコーラスまで、その熱唱に思わず体が動き出し、トランス状態となる人も映し出されるが、映画として観るわれわれにも、その衝動が伝わってくる。
奇跡のライヴを記録するカメラは、70年代ということもあって、洗練には程遠いが、計算されていない牧歌的なムードが、これまた味わい深い。
この伝説の瞬間も含め、アレサの半生を再現した映画も追って公開されるので、天才の実力を本作でしっかと受け止めてほしい。
アレサのゴスペル・ライブはそれ自体がスピリチュアル体験
1972年にロスの教会で行われたアレサ・フランクリンのゴスペル・コンサートを、巨匠シドニー・ポラックが記録したライブ・ドキュメンタリー。コンサートホールではなく小ぢんまりとした教会での演奏ということもあり、ライブの熱気を伝える臨場感がハンパじゃない。これは音響システムの整った映画館で見るべき作品だろう。中でも真骨頂は、有名なゴスペルの原曲をアレサ独自の感性で解釈し、さながら魂(ソウル)の赴くがまま自由自在に歌い上げる「アメイジング・グレイス」と「生命は永遠に」であろう。観客の女性がトランス状態に陥って錯乱するのも納得。譜面通りに歌うだけが「歌」じゃないということを改めて思い知らされる。
『アメリカン・ユートピア』と同日日本公開になる驚くべき恩寵!
『至上の愛~チャーチ・コンサート』の邦題で知られる1972年名盤ライヴの「現場」を収めたフィルムが、99年のコンプリート版CDを経て45年越しで登場!(製作にはS・リーの名も)。教会全体が鳴り響いているような凄まじい臨場感が、もう圧巻。聴衆(M・ジャガー&C・ワッツ含む!)の反応もヤバいほどで、熱狂と高揚が何度も沸点を突破する。
ジェームズ・クリーヴランドのMCとピアノに加え、チャック・レイニー(b)など最高のバンドメンバー。元々監督を務めていたのはシドニー・ポラックだが、彼唯一のドキュメンタリーと言われていた『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』(05年)の前にこれがあったとの認識は重要。
ただのコンサート映画にあらず、熱気あふれる時代の記録
1972年にリリースされたアレサ・フランクリンのライブアルバム『至上の愛』は名盤として有名。その映像版となるのが本作。
ざっくりジャンル分けすればコンサート・フィルム……だが、映画の冒頭で語られるとおり、パブティスト教会の集会の記録、神を讃えて生を謳歌する当時の人々の記録でもある。『ブルース・ブラザース』の教会のシーンで熱狂した方には、その意味がわかるのではないだろうか。
シドニー・ポラックら撮影スタッフの姿もしっかり収められており、名盤のメイキング映像としての役割もフォロー。何より、最初は固かった表情が次第に汗にまみれ、喜びへといたるアレサの姿と歌が圧倒的に素晴らしい。
今まで埋もれていた最高のお宝
およそ40年前に撮影されていた今作がアメリカで公開されたのは、アレサ・フランクリンが亡くなった後の2019年。彼女の並外れた才能を今一度体感するのに、これほどぴったりの作品はない。2日間にわたり、L.A.の教会で一般観客を入れて行われたライブレコーディングは、とにかく熱気に満ちていて、スクリーンを通しても興奮がガンガン伝わってくる。撮影されたのが黒人公民権運動の真っ最中だったということもまた、内面的なエネルギーをプラスする(プロデューサーにはスパイク・リーも名を連ねる)。映画として完璧とはいえないかもしれないが、それも逆にナチュラリスティックで正直な雰囲気を与えているといえる。