1秒先の彼女 (2020):映画短評
1秒先の彼女 (2020)ライター5人の平均評価: 4
映像表現の毛細血管が若く、物語の肺活量が多い
“タイム感”が正反対の男女ふたりを主人公にした、探し物ならぬ「失くし物」の映画。チェン・ユーシュン監督は『祝宴!シェフ』(13)で幼い時分から親しんできた習わし、都市化によって失われつつある辦桌(バンド)=「屋外での宴会スタイル」に愛惜の念を表明したが、ここでは消えた「1日」を探す旅を通して、ゲスい世の中がいつしか消し去ってしまったものを問いかけてくる。
いつもながら想像の斜め上……いや、“異次元の趣向”でもって突飛な奇想をヴィジュアル化。作為に満ち溢れているのに、ひとつひとつの映像表現の毛細血管が若く、しかも物語の肺活量が多い。細部まで手を尽くしたチェン・ユーシュンの「構築美」すら感じる。
全ての不器用な人々へエールを送る小粋なラブファンタジー
なんとチャーミングで愛らしい映画なのだろう。他人よりもせっかちな性格のせいで損ばかりしている無邪気な女性と、他人よりものんびりした性格のせいで自分の殻に閉じこもった内気な青年。そんな2人に七夕バレンタインの奇跡が起こり、やがて運命が大きく動き始める…という恋愛ファンタジーだ。単なるラブストーリーではなく、世渡りが苦手で生き辛さを抱えた全ての不器用な人々への応援歌に仕上がっているところがいい。シニカルなブラックユーモアを効かせたポップな演出が、ともするとベタになりがちなストーリーに爽やかな説得力を与えている。そういえば、台湾では七夕の日がバレンタインデーなのね。
生き急ぐ女と、生き遅れる男の、粋なファンタジー
『欲望の翼』『恋する惑星』などの初期ウォン・カーウァイ作品を思わせる時間の流れ、そして心と心のすれちがい。女の側から見た前半と、男の側から見た後半の2部構成や、キャラのモノローグもカーウァイ風だが、そこはチェン・ユーシュンならではの旨味アリ。
ヒロイン視点の前半はアップテンポでユーモラス。矢継ぎ早に色々なことが起こり、幻想的な舞台装置の切り替わりも手伝い、『ラブゴーゴー』に通じるスクリューボールコメディタッチ。そこで張られた伏線が男性視点の後半で回収され、切なさを醸し出す。
ファンタジー設定を抒情的な映像とオーガニックな音楽でくるみ、気持ちよい結末に着地。これは巧い!
おばさんも胸キュンしちゃった台湾ロマンス
イケメンとデートのはずが、起きたら翌日だった!? 消えた“七夕情人説”の謎を探る女性シャオチーと、毎日手紙を出す謎の男性グアタイの恋の行方がファンタジックに描かれ、年甲斐もなく胸キュンしっぱなし。ポップ&キュートな映像や小洒落たラジオ描写、きも可愛いヤモリの精、流木と貝殻で作った相合い傘など台湾らしい小技が満載で泣けた! 恋を左右する時間理論は?だが、不器用にしか生きられない人の背中をそっと押すC・ユーシェン監督の優しさを感じる。ヒロインは美女ではないが、どんどん可愛く見えてくるから不思議。特に笑顔が爽やか。見終わった瞬間、緑豆トッピングの豆花が食べたくなりました。
失われたバレンタインの謎
失われたバレンタイン・デーをめぐる郵便局員とバス運転手のミステリー仕立ての奇妙なラブストーリー。幻想的な嘉義県の海岸線などのロケーションの良さに、台湾スイーツ「豆花」による飯テロ性など、“台湾版『イルマーレ』”な趣きだ。また、まるで『アメリ』のように嫌味なくポップかつキャッチーに、描いているのだが、クライマックスの超展開をラノベ的純愛として観るか? それとも「時間よ止まれ!」系AV的変態と観るか?で、評価は大きく変わるかもしれない。ちょいと長尺だが、相変わらず、随所にベタベタな笑いを散りばめるなど、心地良い時間の流れは変わらないチェン・ユーシュン監督作らしさに、★おまけ。