第69回ベネチア国際映画祭コンペティション部門全18作品を紹介!
第69回ベネチア国際映画祭
8月29日~9月8日(現地時間)に開催される、第69回ベネチア国際映画祭。世界中から注目されるコンペティション部門には、北野武監督の『アウトレイジ ビヨンド』の名も。盛り上がりを見せること必至のコンペティション部門に選出された全18作品を紹介!
ピエタ(原題)Pieta
頼る者もなく孤独に生きてきたカンドは、手段を選ばず債務者たちから借金を取り立てる悪魔のような男として悪名をはせていた。ある日、突然彼の前に母親だと名乗る謎の女性が姿を現し、カンドの運命は思わぬ方向へと向かうことになる。
オダギリジョー主演の『悲夢(ヒム)』以来、監督としては表舞台から遠ざかっていた韓国の鬼才キム・ギドクの最新作。同監督の本映画祭への招待は『魚と寝る女』『受取人不明』『うつせみ』に続いて4度目となる。『サマリア』で第54回ベルリン映画祭銀熊賞(監督賞)、『うつせみ』でベネチア国際映画祭銀獅子賞を獲得し、『アリラン』で第64回カンヌ映画祭ある視点部門最優秀作品を受賞と、三大映画祭を制覇した監督が、本作で最高賞の金獅子賞の栄冠を手にするか期待が高まる。
ザ・マスター(原題)The Master
1950年代、第2次世界大戦から生還し、カリスマ的な魅力で独自の信仰を広めたマスターこと教祖のランカスターは、放浪者のフレディを弟子とし自分の右腕にした。やがて教団の規模は大きくなり、信者も増えていくが……。
映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以来のポール・トーマス・アンダーソン監督による新作は5度目のタッグとなるフィリップ・シーモア・ホフマンを主演に迎えた。音楽はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当。教祖と弟子の関係を描く作品だが、主人公の設定がサイエントロジーの創始者L・ロン・ハバード氏と酷似していることから、全米では9月公開を目前に控え注目度は急上昇中だ。
パラダイス:フェイス(英題)Paradise:Faith
アナ・マリアの楽園はイエスと共にあった。休暇を布教活動にささげ、どこに行くにも30センチほどのマリア像を抱えていた。そんなある日、エジプトから夫が帰ってくる。アナとイスラム教徒の夫はそれぞれ賛美歌を歌い、祈り、そして戦った。
5月のカンヌ国際映画祭のコンペティション出品作『パラダイス:ラブ(英題) / Paradise: Love』に続き、オーストリアの鬼才ウルリヒ・ザイドル監督が「パラダイス3部作」としておくる第2弾。前作の主人公テレザの姉妹、アナが体験する結婚の受難が描かれる。『ドッグ・デイズ』が第58回の本映画祭審査員特別賞を受賞しているザイドル監督。宗教と結婚との確執をあぶり出す本作は、宗教が身近なイタリアでも話題を呼びそうだ。
フィル・ザ・ボイド(英題)Fill the Void
イスラエル
Rama Burshtein、Yigal Bursztyn
Hadas Yaron、Yiftach Klein
メンデルマン家はイスラエルのテルアビブで暮らす典型的なユダヤ人ファミリーだ。18歳の末っ子シーラは同い年の青年と結婚の約束を交わしていたが、28歳の姉エスターの初めての子どもが出産中に亡くなったことに家族は大きなショックを受け、シーラの結婚話は棚上げになる。
イスラエルで監督や脚本家、プロデューサーとしても活躍するYigal Bursztynと、今回が初メガホンとなるRama Burshteinが監督としてタッグを組んでおくる人間ドラマ。イスラエル映画といえば戦争ものやシリアスドラマなどがメインを占める中、テルアビブに住むごく普通のユダヤ人一家にスポットを当てたところに新味が見られる。欧米の作品が中心の今回のコンペ部門では珍しいイスラエルの新人監督の入魂作が、賞レースにどのように迎えられるのかに注目。
エ・スタト・イル・フィリオ(原題)E Stato Il Figlio
パレルモの貧乏な一家に止められた新車のボルボ。近所のマフィアの銃撃戦で幼い娘が死亡し、その賠償金で新車を購入したのだった。そんなある日、息子が車に傷をつけて帰ってきたことに父が激怒。ところが息子は反対に父を殺してしまう。
マルコ・ベロッキオ監督の『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』ではイタリアのアカデミー賞やシカゴ国際映画祭で撮影賞を受賞し、『ドーマント・ビューティ(英題) / Dormant Beauty』では撮影監督を担当するダニエーレ・チプリ。1999年と2004年には共同監督を手掛けたドキュメンタリー作品で本映画祭に参加しているが、単独監督作かつコンペ部門は今年が初となる。撮影のみならず、監督としても才能を発揮するか?
ドーマント・ビューティ(英題)Dormant Beauty
17年も植物状態で横たわる女性エルアナ・エングラロをめぐり、イタリア中で大論争がぼっ発。ある議員は新法案に反対票を投じるべきか悩んでいた。一方、議員の娘で中絶反対の活動家のマリアは、エルアナの病院前で抗議活動をしていた。そんな中、マリアは敵であるはずの、非宗教的な主張をするデモに参加していたロベルトと恋に落ちてしまう。
2009年、イタリアで交通事故により植物状態になった女性の家族が安楽死を希望したことが大きな論争となった。その実話をヒントに、マルコ・ベロッキオ監督がメガホンを取った問題作。イザベル・ユペール、トニ・セルヴィッロと仏伊を代表する名優が共演し、群像劇を展開する。三大映画祭の常連で、代表作『夜よ、こんにちは』では本映画祭芸術貢献賞を受賞しているベロッキオ監督。地元イタリアの巨匠に熱い視線が注がれる。
サムシング・イン・ジ・エアー(英題)Something In The Air
1970年代初頭のパリ。政治闘争に巻き込まれた男子高校生のジルは、恋や芸術に憧れてイタリアへ、そしてロンドンへと向かう。しかし激動の時代に居場所を見つけるため、ジルにも決定的な選択をするときがやって来ていた。
『イルマ・ヴェップ』『夏時間の庭』と作品ごとに意外性を発揮する鬼才オリヴィエ・アサイヤス監督が、1968年の五月革命の「その後」をつづる青春映画。イギリスのカウンターカルチャーを背景に、熱狂の渦の中で青春を過ごしたヨーロッパの若者を描く。第43回の本映画祭でデビュー作『デゾルドル(原題) / Desordre』を批評家週間に出品し、国際批評家連盟賞を受賞したアサイヤス監督。今回は初コンペで金獅子賞なるか?
ラ・サンキエーム・セゾン(原題)La Cinquieme Saison
ルギー、オランダ、フランス
ピーター・ブロッセン、ジェシカ・ウッドワース
Sam Louwyck、Aurelia Poirier
春が来ないという、アルデンヌの農村をいきなり襲った異常な自然災害。昆虫は消え、牛はミルクを出さなくなる。不作が続けば、飢饉(ききん)がやって来るのは間違いない。そんな中、不安を覚える住民たちは暴力的になり始める。
コンビでの第1作『Khadak』が第63回のベネチア・デイズ部門で新人監督賞に輝いたことが刺激になったと話す、ベルギーのピーター・ブロッセン&ジェシカ・ウッドワース監督。エコロジーやスピリチュアルな作風が特徴といわれ、モンゴルが舞台の『Khadak』、ペルーで撮影した『アルティプラノ(原題) / Altiplano』に続く長編3作目の作品となる。カタストロフを独創的な視点で描いた本作が、審査員の目にどう映るのか気になるところ。
ウン・ジョルノ・スペチアーレ(原題)Un Giorno Speciale
ジーナとマルコはお互いに記念すべき初仕事の日を迎えていた。女優志望のジーナは大事なミーティングを控えており、運転手として初めてハンドルを握るマルコは、初仕事ながらも大切なクライアントを約束の時間までに無事、目的地まで送り届けるために最善を尽くそうとする。
日本での知名度はあまり高くないものの、父親ルイジをはじめ、姉クリスチナも映画監督という芸術家一家に育ったサラブレッドのフランチェスカ・コメンチーニ監督。映画『ママは負けない』で、第54回ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニック審査員賞を受賞。本映画祭では『まっさらな光のもとで』が、第66回のコンペ部門でPasinetti Award最優秀作作品賞と最優秀女優賞を受賞しているだけに、今回も上位争いに食い込んでくること間違いなしだ。
パッション(原題)Passion
同じチームで働くクリスティーンとイザベル。イザベルのアイデアを盗んだクリスティーンは悪びれるどころか、イザベルを出し抜いたことに舞い上がっていた。しかし、イザベルがクリスティーンの恋人と体の関係を持ったことによって、二人の戦いが幕を明ける。
『リダクテッド 真実の価値』から5年ぶりの、ブライアン・デ・パルマ監督待望の新作。フランスのアラン・コルノー監督の『ラブ・クライム』をリメイクしたエロチックスリラーで、『シャーロック・ホームズ』のレイチェル・マクアダムスと『プロメテウス』のノオミ・ラパスの魅力的なヒロインが駆け引きを繰り広げる。デ・パルマ監督は前作が本映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞しているだけに、狙うはそれ以上の金獅子賞だ。
スーパースター(原題)Superstar
いつもと変わらない朝、通勤する労働者のマルタン。しかし普段とは何かが違う。見知らぬ人にサインを頼まれ、写真を撮られ、握手まで求められる。そしてテレビ、ラジオ、インターネットにはマルタンの名が躍っていた。知らぬ間に突然セレブになったマルタンは……。
『情痴 アヴァンチュール』のグザヴィエ・ジャノリ監督が、本映画祭初のコンペ参戦。『サラの鍵』の脚本を手掛けたセルジュ・ジョンクールの小説を映画化したコメディー映画。不条理かつ妙に現実的な世界観は、監督いわくアルフレッド・ヒッチコックの作品やフランツ・カフカの「変身」からインスピレーションを受けたという。賞向きの作品ではないが金獅子賞レースにどう絡むか?
アウトレイジ ビヨンドOutrage Beyond
壮絶な抗争の末、関東最大の暴力団組織・山王会がトップに立ってから5年の月日が流れた。今では関東圏内の全てを掌握し、政界にまで進出し始めた彼らの力を恐れた警察がついに動き出し、関西の最大組織・花菱会と山王会を対立させようと画策する。
「世界のキタノ」として高い評価を受ける北野武が監督と主演を務め、暴力団の激しい内部抗争を描いた究極のバイオレンス映画『アウトレイジ』の続編がベネチアに登場。『HANA-BI』で第54回の同映画祭最高賞の金獅子賞を受賞し、第60回にも『座頭市』が監督賞にあたる銀獅子賞を獲得するなど、北野監督とベネチアとのつながりは強い。そんな監督の最新作が2度目の金獅子賞の受賞となるか熱い視線が注がれる。2012年10月6日本公開予定。
スプリング・ブレイカーズ(原題)Spring Breakers
4人の女子大生ブリット、キャンディ、コティ、フェイスは、ファストフード店を襲って休暇資金にしようと企てるが、計画は失敗して捕らわれの身に。そんな4人組を留置所から保釈させたのは闇社会の男だった。
20代前半にして、映画『ガンモ』で本映画祭の国際批評家連盟賞スペシャル・メンションを受賞したハーモニー・コリン監督。インパーソネーター(なりきり芸人)を取り上げた映画『ミスター・ロンリー』など、その作風は玄人受けする傾向がある。そして彼が選ぶ題材はアメリカ南部の問題と、破壊を内包する物語が多く、間合いも独特なだけに春休みの忘れ得ぬ体験を描く本作も強烈な個性を放つだろう。
トゥー・ザ・ワンダー(原題)To The Wonder
女性にだらしない男が旅先のパリで出会った女性と激しい恋に落ち、二人は故郷のオクラホマに戻って結婚する。しかし妻のビザ取得を目的とした結婚は長続きせず、結局彼は長年にわたりさまざまな体験を共にしてきた幼なじみの女性とよりを戻すことになる。
『ハリウッドランド』で第63回本映画祭の男優賞に輝いたベン・アフレックと『ミッドナイト・イン・パリ』のレイチェル・マクアダムス共演の恋愛ドラマ。 『シン・レッド・ライン』が第49回 ベルリン映画祭金熊賞受賞、『天国の日々』が 第32回のカンヌで監督賞、『ツリー・オブ・ライフ』が第65回のカンヌでパルムドールを獲得している監督の、唯一無冠のベネチアでの健闘に期待がかかる。
ザイ・ウォン(英題)Thy Womb
海のジプシーともいわれ、一生のほとんどを海の上で過ごす漂海民バジャウ族。そのコミュニティーの一つTawi-Tawiで助産師をする女性が、自身が不妊であることを憂い葛藤しつつも無条件の愛を見せていく。
カンヌ映画祭コンペ部門に『サービス(原題) / Serbis』をフィリピン映画史上初出品し、その翌年は『キナタイ-マニラ・アンダーグラウンド』と連続出品を果たした注目監督。また、『ばあさん』と『キャプティブ(原題) / Captive』で三大映画祭を経験。本作は大女優ノーラ・アウノールを起用し、宗教色と東南アジア特有の喧騒(けんそう)を色濃く反映させ、国際舞台で強い印象を与える作品を誕生させた。
リーニャ・ドゥ・ウェリントン(原題)Linhas De Wellington
1810年、フランス軍はウェリントン将軍率いるイギリス・ポルトガル軍にブサコの戦いで敗北。人数で劣る英葡軍は撤退すると見せ掛け、仏軍をトレス・ヴェドラス線におびき寄せる。さらには大地を焼き払い、仏軍の後方支援を妨害してしまう。兵士と共に生き延びてトレス線まで逃げてきた市民も、この地での最後の戦いに運命を委ねていた。
ナポレオン軍がスペインを侵略したスペイン独立戦争を描いた歴史ドラマ。フランスに亡命したチリの巨匠ラウル・ルイスの妻で編集を手掛けていたヴァレリア・サルミエントが、急逝した監督の代わりにメガホンを取った。ジョン・マルコヴィッチの他、マチュー・アマルリックやカトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピッコリなど実力と名声のあるキャストがそろっただけに、映画祭を盛り上げることは必至。
ビトレイヤル(英題)Betrayal
ロシア
キリル・セレブレンニコフ
フランチェスカ・ペトリ、デジャン・リリック
ひょんなことから出会った二人。ところが自分の愛人は、相手の配偶者であると互いに気付いてしまう。
監督のキリル・セレブレンニコフは前衛的スタイルでモスクワ芸術座をはじめさまざまな劇場で演出家として活躍後、映画製作に興味を抱き『ラギン(原題) / Ragin』で映画監督デビュー。長編第2作目の『被害者を演じて』でローマ国際映画祭グランプリを受賞。監督自身三大映画祭への出品は初めてだが、昨年はロシア映画『ファウスト』が金獅子賞(作品賞)に輝いたこともあり、2組の夫婦の恋愛劇である本作で同国の連続最高賞獲得に意欲を燃やす。