略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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2004年、火星探査のために打ち上げられ、当初は90日間しか動かない予定だったが、実に15年もの間、活動し続けたローバー「オポチュニティ」をめぐるドキュメンタリー。これが泣けて仕方ないのだ。火星の過酷な環境の中、健気に任務を遂行し続けるオポチュニティは、古参スタッフにとっては「誇らしい子」であり「人生の一部」だった。メンテナンスできないため劣化していく彼女(ローバーの三人称はShe)を見守る若いスタッフにとっては「祖母」でもある。オポチュニティとスタッフの間には間違いなく「愛」があった。『オデッセイ』や『宇宙兄弟』が好きな人は必見。シュワルツェネッガーも出るよ。
娘がうっかりSNSに投稿した写真で身バレした元殺し屋が、妻と義兄を殺したマフィアに復讐(ヴェンデッタ)するため、娘ともども追手を殺しながらミラノへ向かうマカロニ血煙父娘旅。具体的なことを何も説明しないまま行動する父親と父親の言いつけを何も守らずトラブルを起こす娘にイラつく人には向いていないかもしれないが、とにかく何が何でも殺せばOK! という問答無用のバイオレンスアクションがお好きな方にはオススメ。父親に殺人術を叩き込まれる娘役のジネーヴラ・フランチェスコーニがいかにもナチュラルボーンキラーな雰囲気で良い。続編もありそう。
とにかく脚本・監督・キャラクターデザイン・作画監督を務めた原作者・井上雄彦にしかなし得ないストーリーの再構築ぶりに驚かされる。湘北のポイントガード・宮城リョータの物語とともに綴られる名勝負中の名勝負、山王戦の興奮と歓喜に震えっぱなし。あのカッコいい絵がずっと動き続けるのがシンプルにすごいのだが、単なるカッコいい名場面集にとどまらず、大きな壁や窮地を乗り越えるには、涙と泥にまみれた過去と情念が力になることを描ききっているのが素晴らしい。原作は必ず読んでから劇場に出向くこと。
忌まわしい存在とされていたネコを愛らしく描き、ネコの地位を飛躍的に向上させた画家ルイス・ウェインの生涯をベネディクト・カンバーバッチ主演で描く。19世紀末のイギリスは、自然の風景、家、庭、洋服、調度品など、美しいものばかりで彩られているが、さまざまな生きづらさを抱えるルイスにとっての世界はけっしてそうじゃない。そんな中、身分違いの妻・エミリー(『ザ・クラウン』のクレア・フォイ)と飼い猫ピーターとの愛が、世界の美しさに気づくきっかけをルイスに与える。誰に何を言われようと、何度も押し潰されそうになりながらも、自分だけの愛と美意識を貫いたルイスの姿が胸に迫る。もちろん、ネコも可愛い。
宮崎駿や高畑勲もアニメ化に携わったウィンザー・マッケイの児童向けコミック『夢の国のリトル・ニモ』をネットフリックスで映画化。父を失った11歳の少女・ニモがジェイソン・モモア演じる無法者フリップとともに夢の世界を冒険するのだが、ちょっと理屈が勝ちすぎてテンポが損なわれているように感じた。もっと驚くようなビジュアルや胸躍る冒険を見たかった人も多いのでは。実は途中から少女じゃなくてクリス・オダウド演じる心を閉ざした叔父の物語になっているのだが、だとするとストーリーの描き込みが不足している。主演の子役マーロウ・バークリーは名女優の貫禄。ジェイソン・モモアは非常に楽しそうに演じていて何より。