略歴: 1971年、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作、「映画秘宝(洋泉社)」編集部員を経て、フリーとなる。現在は映画評論家として、映画誌・情報誌・ウェブ、劇場プログラムなどに寄稿。また、香港の地元紙「香港ポスト」では20年以上に渡り、カルチャー・コラムを連載するほか、ライターとしても多岐に渡って活動中。
近況: 『インファナル・アフェア4K 3部作』『search #サーチ2』『縁路はるばる』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『恋のいばら』『この小さな手』『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』(公式HP)『呪呪呪/死者をあやつるもの』(公式HP)などの劇場パンフにコラム・インタビューを寄稿。そのほか、キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」にて細田守監督×ポン・ジュノ監督、「CREA WEB」にてアイナジエンドさん、倉悠貴さん、Evan Callさん、「GetNavi web」にて中井友望さん、武田玲奈さん、北香那さん、浅川梨奈さん、三浦翔平さん、森山みつきさんなどのインタビュー記事も掲載中。
オランダ人とデンマーク人の国民性の違いから巻き起こる心理サスペンスかと思いきや、じつはそうでもない……。そんな観客をも煙に巻く、アリ・ラスターとは異なる『ザ・バニシング-消失-』『ファニーゲーム』にも通じる欧州系胸クソ映画である。ちょっとした親切心や判断ミスで、とんでもない方向にいき、「カイジ」でないのに、忍び寄る恐怖にざわざわ。ドリフでもないのに、思わず「後ろ!」と叫んでしまいそうな王道ホラー演出にどきどき。他人に弱さを見せがちな夫、第六感が働く妻といった男女の違いも描写。ジェームズ・マカヴォイが“招待する側”を演じるハリウッドのリメイクにも期待してしまう。
「緋文字」を元に脚色した『小悪魔はなぜモテる?!』で、エマ・ストーンをブレイクさせ、注目を浴びたウィル・グラック監督が、今度はシェイクスピアの『空騒ぎ』を元に脚色。そう考えると、モノ足りなさが目立つが、とにかくよく脱ぐグレン・パウエルと下ネタもいとわないコメディエンヌとして開花したシドニー・スウィーニー。2人の魅力を堪能するラブコメであり、オーストラリア観光映画としての見せ場など、いろんな意味で王道な作り。そんななか、両家の親にブライアン・ブラウンとダーモット・マローニーを配し、この12年間に『ピーターラビット』シリーズを手掛けた監督ならではのキャラクター捌きは興味深い。
『ソラニン』を思い起こさせる音楽映画としてのクオリティの高さに加え、低体温ながら抜群のエモさ。導入部こそ、コミュ障男子とメンヘラ女子の奇妙奇天烈な話にしか見えないかもしれないが、いわゆるコミック原作の実写化としてのリアリティはキープ。とにかく、海と空の情景に相まって、DTMによるサウンドが心地良いのだ。実際の天然キャラとは異なる主人公の繊細さを表現した川西拓実と、彼をしっかりサポートしつつ、要所要所でヒロインとしての輝きを放つ桜田ひより。ほかにも、違和感がないキャスティングにも引き込まれるものの、音楽プロデューサーのラスボス感がイマイチだったことが惜しまれる。
デビュー作『メモリー First Time』以来、難病モノばかり撮っている感のあるハン・イエン監督だが、今回は人工透析しながら腎臓病と戦う女と肝臓のドナーとして立候補する悪性脳腫瘍を患う男の恋愛物語。ゆえに、シリアス度は2倍……と思いきや、前半は闘病生活をリアルに描きつつ、猟奇的な彼女と彼によるバトルが展開。最悪の出会いから、まさかの同棲にまで発展するスラップスティック・コメディから一転、お互いの家族を巻き込んだ純愛ラブストーリーへと進化を遂げる。このバランスが絶妙すぎるうえ、2人の生命力にも繋がる熱のこもった演出に圧倒される! 本国におけるスマッシュヒットも納得。
自然豊かな土地を舞台に、よそ者による介入が波紋を引き起こし、衝撃的なクライマックスへ……。まさに『ヨーロッパ新世紀』や『理想郷』に通じる社会派ドラマともいえるのだが、そこは一筋縄ではいかない濱口竜介監督作。今回も平坦なセリフ回しによって、ときにユーモラスで、ときに緊迫感溢れる会話劇が肝となっているが、企画の発端となった石橋英子による音楽と北川喜雄による撮影のシンクロ率がとんでもないことに! そのため、今回もドライブとタバコがキーワードになっているなか、意味深で魔法のようなカットの連続に息を呑む。余韻どころじゃない刺激的な映像体験を求めるなら是非!