略歴: 1971年、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作、「映画秘宝(洋泉社)」編集部員を経て、フリーとなる。現在は映画評論家として、映画誌・情報誌・ウェブ、劇場プログラムなどに寄稿。また、香港の地元紙「香港ポスト」では20年以上に渡り、カルチャー・コラムを連載するほか、ライターとしても多岐に渡って活動中。
近況: 『インファナル・アフェア4K 3部作』『search #サーチ2』『縁路はるばる』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『恋のいばら』『この小さな手』『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』(公式HP)『呪呪呪/死者をあやつるもの』(公式HP)などの劇場パンフにコラム・インタビューを寄稿。そのほか、キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」にて細田守監督×ポン・ジュノ監督、「CREA WEB」にてアイナジエンドさん、倉悠貴さん、Evan Callさん、「GetNavi web」にて中井友望さん、武田玲奈さん、北香那さん、浅川梨奈さん、三浦翔平さん、森山みつきさんなどのインタビュー記事も掲載中。
布団のCMで、世界の三船敏郎に「うーん、ねてみたい」と言わせる二十数年前。14歳の少女だったプリシラのシンデレラ・ストーリーだけに、近年微妙な作品が続いたソフィア・コッポラ監督が原点回帰。グレイスランドの大豪邸で“キング・オブ・ロックンロール”の帰りを待つ、“籠の中の乙女”の孤独が溢れ出す。『ロスト・イン・トランスレーション』のパークハイアット東京や『マリー・アントワネット』のヴェルサイユ宮殿に閉じ込められたヒロインに通じるものがあり、ファッションなり、選曲なり、いい意味でのクリシェ感がツボを突きまくり。ケイリー・スピーニーのキラキラ映画という意味で、★おまけ。
夢に見た幸せな家庭を築くため、専業主婦として生きていこうと決めた母が主人公なのだが、実際はトラウマを抱えた義理の娘と謎の共感力で彼女を取り込もうとする“ちーちゃん”の関係性がメイン。そういう意味では、問題作『ハロウィン THE END』にも近いのだが、そこは内藤瑛亮監督作。『ミスミソウ』ばりに白と赤のコントラストが際立ち、シスターフッドな展開もある。押見修造キャラデザインというキャッチーさとともに、ダークヒロインの要素も秘めた“ちーちゃん”だけに、前日譚を含むシリーズ化も期待したくなるが、『ミスミソウ』の山田杏奈ばりに健闘した伊礼姫奈は、果たして続投するのか?
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でカルト教団における信者への洗脳を描いたショーン・ダーキン監督が、今度は毒親における息子たちへの洗脳を描いた、映画版「プロレススーパースター列伝」ならぬ“プロレスラー残酷物語”。尺の都合から、六男クリス(91年に自殺)の存在が無視されたなんて細かいことは置いといて、あまりにドラマティックな「呪われた一家」のエピソードを、堂々たる演出で魅せる130分一本勝負。アメリカンドリームを描きつつ、不穏な空気感がホラーな効果をもたらし、80年代プロレスに興味がなくても、いろんな意味で刺さりまくるはず。そういう意味でも、A24作品らしい一作といえる。
「アーロン・エッカートもリーアム・ニーソン化?」といえる設定だが、元CIAエージェントの“レンガ職人”という、美味しい設定を生かし切れない残念さ。しかも、孤軍奮闘かと思いきや、相棒に「ヴァンパイア・ダイアリーズ」以降、パッとしないニーナ・ドブレフを迎え、どこか『ナイト&デイ』を思い起こさせる。いろいろと既視感アリな展開に加え、『エクスペンダブルズ』のミレニアム・メディアによるレニー・ハーリン監督作だけに、肉弾戦に銃撃戦、カーチェイスに爆破シーンと、しっかり盛り込んでくるサービスは健在。プロデューサーでジェラルド・バトラーがクレジットされている点もいろいろ想像してしまう。
『第9地区』好きにはたまらない、不穏なのに穏やかな日常系からの超展開。侵略者が襲来する「8.31」など、いかにも浅野いにお原作な拗らせっぷりに、「ドラえもん」などのオマージュ&新解釈、刺さるセリフの数々。それに加え、いきなり原作の闇落ち過去パートをブチ込んでくる吉田玲子による脚色が秀逸すぎ。コロナ禍を経た今の時代に絶妙にマッチした一本といえるが、単なる話題作りにも思えたキャスティングも見事しかない。とにかく全12巻のうち、まだ4巻程度までしか描かれていない『前章』。いろいろと風呂敷を広げ、課題を残しているだけに、『後章』を観ないと始まらない!