略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
老匠の瑞々しく軽やか手さばきに、身も心も洗われる。オールドファッションな再現性も、耳に馴染みのある名曲とその誕生秘話も劇的で素敵だが、何よりも、誰もが経験しうる普遍的な人生のドラマとして奇跡的な完成度だ。うらぶれた街も華々しいショウビズもいかがわしい裏社会も、イーストウッドは熱くなりすぎず達観することなく、慈愛に満ちた眼差しで見つめている。出会い・別れ・栄光・挫折そして再起…全てを分け隔てなく優しく包み込み、祝祭空間としての人生を温かく愛でている。今は刀折れ矢尽き、憔悴しきった人生の旅人にこそ観て欲しい。生まれ変わって再び歩き出す力を、この映画は与えてくれる。人生は巡り人は皆甦る。
絶滅しゆくヒト、勃興しつつあるサル。文明が芽生えれば、サルの共同体も一枚岩ではなくなる。ヒトとの共存を嫌悪する排外性。暴力をもって自己主張する強硬派が勢いを増す。そう、これはサルを通して我々の性懲りもない自画像を描く作品だ。悪はいない。それぞれに正義がある。争いはこうして起きるのだ。このサル版『ゴッドファーザー』『乱』は、表情による芝居が凄まじい。それは最新のCG=モーション・キャプチャーが可能にした。叛乱を起こすサルどもはコピペではない。95%以上はグリーンバックではなくロケ地で撮影されている。俳優が演ずる、感情渦巻く生々しい2千頭の軍団によって、サルと共に映画表現がまたひとつ進化した。
おそらく全世界の12%くらいの人々しか期待していなかったであろう、マーベル・スペースオペラの愉快痛快奇々怪々な実写化。より壮大により深刻になっていくアメコミ映画へのアンチテーゼとして見事な脱力感。成功の決め手は、愛すべきダメキャラと、しょーもないギャグの間合いと、元気になる70年代ミュージック連打。あまりのチープさに、シネコン以前の場末の映画館の空気まで甦ってくる。あの頃の音楽はデータ化なんてせず何十年経ってもカセットテープで聴き続けていればパワーの源になるという世代的肯定感と、絶体絶命に陥ったボンクラでも力を合わせれば何とかなるという自己肯定感で包み込み、「映画」の役割を十全に果たすのだ!
アクションとドラマが有機的に絡まり合い、止揚していく。俳優が練習に次ぐ練習の果て、身体の限界に挑む過激なノンフィクションとさえ言いたくなるほど、素速い動きと荒い息遣いと響き渡る鼓動が、観る者を高揚させる。福山雅治との師弟対決に始まり、藤原竜也との最終バトルまでの道のりには、佐藤健=剣心の苛烈な魂の軌跡がある。これは平和な時代を虚無的に漂ってきた若者が、ニヒリズムを超えて死中に活を見出し、戦いの真の意味に目覚め、生の輝きを掴む同時代の神話だ。この国の「不殺(ころさず)の誓い」が揺らいだ今年、ヒーローの葛藤は我々の身に重なる。大友啓史は大活劇で魅せつつも、重厚なテーマにまで果敢に斬り込んだ。
劇場に足を運ばせるヴィジュアルとコピーの力だけは認めよう。ヒロインが復讐を遂げる中二病的SF妄想アクションは、観る者のIQに応じてツッコミを誘うトンデモ映画だ。スカヨハの進化に反比例してベッソンの演出は退化する。体内にクスリが浸透すれば重力だってお構いなし。そうか、覚醒しきった能力はUSBメモリに収まるのか。科学性も哲学もなき超人思想を前に、モーガン・フリーマンの知性とチェ・ミンシクの狂気も台無し。堕ちた鬼才が危険なドラッグに手を出してしまったかのような迷走ぶり。いっそのこと、エンドロールには「千の風になって」を付ければ完璧だったのに。監督・脚本・主演女優のラジー賞制覇も夢じゃない。