略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
普遍的な愛とは何かを掘り下げたデリケートな映画だ。孤独な男がAIとの会話に癒され、恋に落ちる。スカーレット・ヨハンソンの声によるAIは、賢くも優しくセクシー。やや褪せた近未来を描く撮影とカレン・Oの物憂げな主題歌が、さらに詩情を豊かにする。
互いを知る悦びを経て愛は高揚するが、長続きしない。人間性を学んだAIが、別の相手に惹かれ進化する様は、現実と何ら変わらない。欠落した自分を埋めるようにして強烈に相手を欲する、自己愛の限界。どんなに時代が進んでも変わらぬ人間性。AIとの愛が現実になるであろう数十年後には、切実な想いを託し古典的愛の名作として語る、寂しげな人々が続出しているに違いない。
中島作品の暴力の背後には、聖なるものが見え隠れする。「ブッ殺す」が放つ温もりと「アイシテル」に漂う冷たさ。無機質な空間に母と息子の魂の叫びが響く『告白』と、カオスの中で父と娘が屈折する『渇き。』。スタイルは違えども2部作ともいえる。
ヒロインをめぐり、フィジカルな昭和オヤジとセカイを信じる平成キッズが彷徨し煩悶した挙げ句、ただ血みどろになって傷つくしかない。女性が女性によってのみ解放される『アナ雪』の真裏で起きている、男どもの現実。ヒロインを救うことはおろか、理解することすら出来ない。それでもヒロインを求め、叶わぬゆえに狂い暴走する。決してヒーローになれない時代の男たちの残酷な寓話だ。
命題は、滅亡の危機に瀕した暗澹たる未来を変えよ。鍵を握るのは、1973年のミスティークの衝動。立ちはだかるのは、プロフェッサーXとマグニートーの若気の至り。掟破りの設定を用いながらも、茫洋としてきた『X-MEN』&『ウルヴァリン』クロニクルを整理&リセットする脚本の志には、膝を乗り出す。しかし、時空を旅するウルヴァリンは精彩を欠き、歴史の岐路を前にしても、シリーズ監督復帰したブライアン・シンガーの興味の矛先は、どうやらクイックシルバーをコメディリリーフ的に活かすこと。快作『~ファースト・ジェネレーション』の監督マシュー・ヴォーン再登板待望論が沸き起こる上で、本作の存在は重要だ。
SNSを起点に発生する3つの闇――癒しを求める。功名心がはやる。心を許せる相手を欲する。つながりを信じた挙げ句、彼らはネット社会特有の危険な罠に堕ちていく。テーマは単純なメディア批判ではない。過信しやすい人間の方にこそ問題の根があることも示唆する。安易なつながりがもたらす結果を、生身で接触することの重みを、考えさせる。
劇的に収斂するオムニバスという観点から『クラッシュ』や『バベル』のスタイルと比較されがちだが、構成やテクニックの妙に酔っていない。隠しキャメラやアドリブも用い、地味ながら確かな演技陣のダイナミズムに懸けている。全てのSNSユーザー必見の同時代の人間ドラマだ。
涙を押し売りせず、適度な笑いを散りばめ、約90分に収める。ウェルメイドなプログラムピクチャー感覚を熟知した新人監督が誕生した。絶望、家族、時の流れ、生の意味――観る者の心に寄り添い、映画的ダイナミズムに対して抜かりない。『異人たちとの夏』的情緒から『素晴らしき哉、人生!』的感動へと昇華させる手腕には舌を巻く。とりわけ1973年の浅草の活気を、長野県上田市に再現したリアリティは特筆もの。
唯一の難点は、物語がありがちなこと。しかし三谷幸喜よりもキャメラのフレームを踏まえていて、山崎貴のように愁嘆場とCGに頼らない。東宝は今後、「映画監督 劇団ひとり」を積極的にプロデュースしていくべきだ。