略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
なぜこんなにも、愚かなジャスミンに惹かれるのだろう。嘘を塗り重ねた挙げ句、真っ逆さまに転落したヒロインなのに。なぜこんなにも、憂鬱なジャスミンがいとおしいのだろう。過去の栄華しかすがるものはなく、今を受け容れられぬ女なのに。
忌み嫌われて当然の堕ちた彼女を、ウディ・アレンが見つめる眼差しは、優しく温かい。彼女は、私たちの虚栄心の映し鏡とは言えまいか。「欲望という名の造花」は、枯れることも叶わず、ただ壊れていく。虚構を愛する者は誰も皆、少なからずジャスミンである。
ストーリーそのものは、感謝祭の日に起きた女児誘拐事件をめぐる悲劇。張り詰めた空気の中、名前・身体・セリフ・事物に至るまで宗教的イコンが散りばめられ、被害者家族と刑事が難解な迷宮の中で苦しみもがく。単なるサスペンスで終わらないのは、悪魔の仕業によって神や信者が試される残酷な宗教画という正体が、見え隠れするからだ。
ヒューマンドラマとしても秀逸。正義の名の下に許される行為はどこまでか。人は皆、何かに囚われて生きている。憎しみの果て、リベンジに心を翻弄された者の末路を観よ。監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの眼差しと撮影監督ロジャー・ディーキンスの陰影が、人間の本質を炙り出し、希望の在り処へと導く。
内向的な主人公が一気にロマンスに駆け上がる前作には抵抗があったが、今作はキャラクタードラマとして練られている。コミック版に忠実であろうとしたサム・ライミ版に対し、マーク・ウェブ版は同時代に根ざす。失われた父性の影が覆う中、等身大の苦悩する青春像と、屈折した心性の象徴としての敵役の造形が明快。
デイン・デハーンが放つ狂気は、主人公を食うほどに魅力的だ。エマ・ストーンの大きな眼と艶やかなゆで卵のような顔は3Dに映える。アクションの空間設計も考え抜かれている。同時期公開作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』とは対照的なポップコーンムービーとして捉え、目くじらを立てることもない。
隠れテーマが鋭い。情けない父親が強靱な万能ロボットに改造されて発覚する、謎の組織による計画。それは“日本をしつけ直す”父性復権の目論みだ。男どもがロボットアニメに惹かれる深層心理に、この国を覆うムードの根を見出し、強き父と弱き父の相克から、本当の強さ/美しさとは何かを問いかける。組織を操る黒幕の正体がリアルで恐ろしい。
巨大ロボ“五木ひろし”は一見唐突なギャグに思えるが、その歌が示唆するものに息を呑み、ラディカルな批判精神に思わず膝を打つ。『~オトナ帝国の逆襲』に勝るとも劣らないカルト化、必至。『永遠の0』ブームに漂うキナ臭さにも果敢に挑む、破壊力満載の痛快な傑作アニメだ。
凄絶を極めれば極めるほど観る者が引き気味になるCGアクションへのアンチテーゼが、この映画だ。主役をヒーローたらしめているのは、時代遅れの誠実さと頑強な肉体のみ。唯一の武器・盾を投げつけ、しかも律儀に回収してまた走る。CGを抑制した生身の接近戦が目まぐるしく展開し、活劇の醍醐味を堪能させる。マーベルは侮れない。
ストーリーは「70年代ポリティカル・サスペンス」の再生。敵が見えにくい時代の「悪」を突き詰めたリアリティ。本作の予習復習に、ロバート・レッドフォード主演『コンドル』(1975)はマストだ。米国史を超えて生きながらえるヒーローは、アメリカ映画史をも今に継承する役目を果たす。